ホラー作家の友達妖怪

 家に差し込む夕日の微かな光が照らす廊下、僕は薄暗い影の中を歩く。
 
 住み慣れた家だっていうのにどうしてか、他人の家の様に思えてくる。
 とりあえず鞄を降ろしたくて、広間に行こうと早足で影が包む通路を過ぎ去った。
 
 広間に入り、即座に電気を付けて鞄を畳の上に降ろしてひと息をついた。
 嫌な事を想像して怖がってきた自分に恥かしさはあるが、誰かに言う人もいないし、見られている事もない為安心する。

 そうだ、何を怖がっていたんだろうか。
 この家には元から自分しかいないじゃないか。
 妖怪なんてフィクションであり、ファンタジーのようなもの。

 なんて阿保らしいことやら……今まで考えていた馬鹿みたいな考えは止めて、晩ご飯の支度を――。

 僕は畳上に置いた鞄から携帯と本を出そうとしたが……ない。
 テーブル横に置いたはずの鞄が何処にもなかった。

 嫌な冷や汗が流れる。
 おかしい……確かに、座る前に()()()()に置いたはずだ。
 そんな直ぐに移動させた事はしていない。

 妙に動悸が早くなる中、僕はテーブルの下や広間周り全体を確認したが何処にもなかった。
 
 ――まただ、物が勝手に移動されている!

 急な怖さが降りかかり、僕は震える声で家の中にいる「何者」かに向けて話した。

「誰かいますか……!」

 その瞬間、廊下の方から誰かが走る足音が聞こえた。
 予想は当たっていた、いや……当たってなんてほしくはなかった。
 
 ――やっぱり、この家には()()()いる……!

 怖がる足を引きずりながら、足音が聞こえた廊下に向かうべく広間から出た。
 廊下から出て、まだ夕日が差し込む玄関前に立つ。
 先程聞いた足音は聞こえない。
 何処へ行ったのか、耳をすましていると……背後から足音が聞こえてきた。

 あまりの怖さで身体が固まる。
 呼吸すら忘れるぐらい身体がこわばって動けないでいると、足音は僕の背後で止まった。
 しばらく待っていると、背後から幼い声で僕に話しかけてきた。
 
 「ねえ、一緒に遊ぼう?」

 この台詞には身に覚えがあった。
 
 そう、この台詞は間違いなく僕が書いた作品に出てくる妖怪「隠れん坊」によるものだ。
 隠れん坊はかくれんぼをしていた小学生達の背後から話しかけて遊びを誘ってくる。
 小学生達は帰る時間帯になり、彼の遊びを断ってしまう。
 彼の遊びを断ると、隠れん坊は小学生達を無理矢理異界に連れ込んで命懸けのかくれんぼをはじめたというものだ。

 この流れはまさに小説とよく似ている。
 僕は震える声を振り絞って背後にいる隠れん坊の遊びに僕は乗った。