ホラー作家の友達妖怪


「清太君すごいよ!売上が上がってるよー!」

「ありがとうございます……」

「いやー、最近調子がいいよねー」

「はあ……」

 「下駄ノ清太」
 
 僕の名前は、「木ノ原 清太」
 「下駄ノ清太」とは、有名ホラー作家になった自分のコードネームだ。
 目の前にいる編集長が嬉しそうに話すが、僕の気持ちは沈んだままだった。
 
 ホラー小説「隠れん坊」という作品を出した。
 その内容とは、5人の小学生達が公園で集まりかくれんぼをするのだが……かくれんぼ中に知らない子が紛れ込む。
 実はその子供というのが妖怪「隠れん坊」であり、隠れん坊によって命懸けのゲームが始まるという話だ。

 完成した作品を編集者に出した。
 そして手元には完成した本がある。
 改めて自分が書いた作品を読んだが……内容が違う。

 僕が書いた作品はいつの間にか改編され、内容はおどろおどろしいものになっていた。
 読んでいた僕でさえあまりの内容に怖くなって続きを読むのを止めてしまうほどだ。
 
 こんな話、僕は書いてない。
 というか、書けない。
 生々しさと気味悪さ、そしておどろおどろしいものが混じったこの作品はまさに「怪異」そのものような気がしてならなかった。

 気味悪さと不快さが腹の中で回りだす。
 この内容は自分が書いたものではないと公言したかったが、この会社の中に僕の作品に対し、手を加えた者などいない事は察しが付く。
 それに僕は一人暮らしだ、知人や友人なんていない。
 
 帰宅途中に沈む夕日を見て思い出したことがあった。
 確かこの時間帯は「逢魔時」というのだっけ?
 夕方になると人影が誰か判別しにくくなり、魔物や妖怪が現れて人間に紛れ込む。
 そして災厄事が一番起きやすい時間帯として、昔の人々は早めに帰宅し家の中に閉じこもったというものだ。

 妖怪や魔物……そう言えば自分の住んでいる家は、確か事故物件だったよな。
 
 色々と 深く考えながらようやっと帰宅し、玄関前に立って古びた扉に鍵を差し込んで入ろうとした時だった。
 ああ、余計な事を思い出したり、考え込んでしまうのもきっと小説家としての性のせいだろうか。
 
 お金も少なく、住めて寝てられる場所が有れば何処でも良いと言って紹介されたこの家は予想以上に安かった。
 少し傷んではいたが、我儘は良くないと思い、有難く承諾をして住んだ。
 
 それから数週間後、奇妙な事が起きた。
 前々から買っておいた食料が減っていたり、物が違う位置あったり、夜中に歩く物音がしたり……不可解な事が頻繫に続いた。
 最初は怖くなって、家を引っ越そうと考えたがそんな大金は持っていない。
 それに皮肉なことに今まで売れなかった僕の作品が、突然爆発的に売れるようになっていった。

 考えられることは、1つだけだった。

 僕が有名になったのも、怪異が続くのも、その全部はこの家に住み着いている「何者」かの仕業。
 
 ――……確かめるしかない。
 
 震える手で玄関ドアを掴み、夕日に照らされるも薄暗く影のある我が家に僕は足を踏み入れた。