愛と劣等

「いっそ、機械だったら良かったのにな」

 ハルオが言うと、マモルは否定も肯定もしない。

「生まれ変わったら機械になる?」

「いいや、普通の人間になって異世界で暮らす」

「異世界転生かー」

 ハルオはマモルに対してなら、気兼ねなく冗談が言えた。

「劣った人間を殺すって言うけど、それは正しいんだよ」

「劣ったって言うけど、何をもって劣ったって言うの? 知能? 免疫力? 病気のあるなし? それとも……」

「知能だよ知能。この文化的な社会じゃ、頭がおかしい奴は生きていけないの」

 面倒くさそうにいつもの答えをハルオは言った。

「でも、遺伝的多様性が無いと種は簡単に絶滅しちゃうよ?」

「その優生学否定派が言う。遺伝的多様性って奴で、その時代に合わないハズレを引いた奴が俺だよ。その当事者からすると」

 そこで一息区切りハルオは続ける。

「社会から必要とされない、存在しちゃいけない、居場所がないならば、せめて安らかに殺してほしいよ」

 塩の袋を抱え「よいしょ」と言ってハルオは立ち上がり、今度はマモルを見て言う。

「だから、今回の件で、俺は本当に、心から救われたと思った」

「そっか」

 ただ、短くマモルは返事をした。

「まぁ、俺の狂っている頭で考えた事だから、間違っているかもしれないし、本当の感情じゃないのかもしれないけどな」

「ハルオがそう思ったのなら、本物の感情だよ」

「本物ね、俺は『人の気持ちを考えなさい』って言われ続けて、必死に考えてもズレてた男だぜ?」

 笑いながらハルオが言葉を返すと、マモルは何も言わなかった。





 二人で集めた食料を見てマモルが言う。

「よし、三日分の食料は集まった!」

 幸いにも水道はまだ(ひね)れば水が出てきた。

 空のペットボトルに詰め込んで、最悪の場合、人間は三日水がなくても死なないらしいので、途中でなくなっても大丈夫であろう。

 ハルオはニコニコと笑い、マモルに話す。

「それじゃ、善は急げってね。行くか?」

「ダメだよ。武器を、あと寝袋も用意しなくちゃ」

「あぁ、それもそうか」

 外の治安は最悪だ。

 それに、復讐で殺すとしても、何か武器になりそうなものを見つけなくてはいけない。

 ふと、思いついてハルオは自室へと戻った。

 そこで手にしたのは、押し入れに眠っていた、ずいぶんと昔に買った模造刀だ。

 鞘から引き抜いて刃の無い刀を見てみる。ハッタリぐらいには使えそうか。

 付いて来たマモルが手にしているのは、厚紙で包んだ包丁だった。

「それじゃ、あとはコレだね」

 包丁をバッグにしまい、ハルオは寝袋をどうするか、考えていた。

「寝袋は、まぁ無くても暖かいしどうにかなるだろ」

 今の季節は春。夜は少し寒いかもしれないが、命に関わるほどじゃない。

 それに、こんな終末の世界だ。どこかで寝袋を失敬しても構わないだろう。


「それじゃ、行こうか」

 ハルオの言葉にマモルはうなずく。

 一歩外へ出れば、街は静まり返っている。

 もう戻る事のない部屋を見つめて、ドアを閉めた。