優生保護法、これは昔の日本に確実に存在していた法律である。
優生学上の見地から不良な子孫の出生を防止する。
簡単に言ってしまえば、先天性の病気のある人間の出産を防止する。
身も蓋もなく言えば、障害者の強制不妊手術、人工中絶の合法化だ。
それよりも昔、優生学というモノが生まれていた。
劣った人が子孫を残せば、劣った人が生まれ、社会の不利益になる。
だが、優秀な人が子孫を残せば、人類の質が上がっていく。
その学問は、とある国が行った凄惨な事件により、タブー視され、否定されるようになった。
しかしながら、表舞台に出ずとも、優生思想について語る者は、今日まで存在している。
「劣った人間は生かす必要など無いのではないか」
「むしろ、死なせてあげた方が、辛い思いもせず、本人の為でもある」
そう考える者達は確かに居た。
考えが実行に移される事は少ない。
数十名の犠牲者を出した事件が今までないことはなかったが。
今回は運が悪かった。いや、必然だったかもしれない。
今や世界を支配している層が、水面下で議論の末、優生学を肯定してしまった。
それからの行動は早かった。
劣った人間には『愛のカプセル』という物が配られ、皆は仰天する。
アルカロイドを複雑に組み合わせた薬で、飲めば多幸感を感じている間に意識を失う。
そのままゆっくり心肺機能が停止する。
配られた人々の行動は様々だった。
怒り、愛のカプセルを床に叩きつける者。
涙を流し、感謝しながら飲み込む者。
遂にこの時が来たかと、達観する者。
説明書には但し書きがあった。
愛のカプセルが送られた劣った人間には一週間の猶予が与えられているが、その間に自死しなければ、我々が殺害しに行くと。
カプセルを飲んだ方が良かったと後悔するぐらい惨い方法でと。
ASD(自閉スペクトラム症)を持つ青年。『キシマ・ハルオ』の元にもそれは当然の様に送られていた。
ハルオは薬の目的と、説明書を読み。
「あぁ、やっと楽になれる」
そう、呟いた。
包装シートに親指を乗せ、緑色のカプセルを押し出す。
そんな時、部屋の扉がノックされた。
「マモルか?」
「そうだよ」
ドアを開けて入って来た彼は、長めの茶髪に栗色の目をし、黒いTシャツにジーンズといったラフな格好をしていた。
顔立ちは整っており、その切れ長の目でまっすぐハルオを見つめた。
マモルの方へ体を向け、ハルオが言う。
「止めるのか?」
「いいや、僕は止めも勧めもしない」
その言葉を聞いて、ハルオは安心した。
「だけど、提案がある」
親友のマモルの言葉だ、最後に聞いておこうと、ハルオは手を下ろして耳を澄ます。
「僕と、最後の旅行に行かないかい?」
「旅行?」
ハルオは思わず間の抜けた返事をしてしまった。そんな事構わないとばかりにマモルは続けた。
「ただの旅行じゃない」
「っと、言うと?」
聞き返され、マモルはニヤリと笑った。
「復讐旅行をしよう」
優生学上の見地から不良な子孫の出生を防止する。
簡単に言ってしまえば、先天性の病気のある人間の出産を防止する。
身も蓋もなく言えば、障害者の強制不妊手術、人工中絶の合法化だ。
それよりも昔、優生学というモノが生まれていた。
劣った人が子孫を残せば、劣った人が生まれ、社会の不利益になる。
だが、優秀な人が子孫を残せば、人類の質が上がっていく。
その学問は、とある国が行った凄惨な事件により、タブー視され、否定されるようになった。
しかしながら、表舞台に出ずとも、優生思想について語る者は、今日まで存在している。
「劣った人間は生かす必要など無いのではないか」
「むしろ、死なせてあげた方が、辛い思いもせず、本人の為でもある」
そう考える者達は確かに居た。
考えが実行に移される事は少ない。
数十名の犠牲者を出した事件が今までないことはなかったが。
今回は運が悪かった。いや、必然だったかもしれない。
今や世界を支配している層が、水面下で議論の末、優生学を肯定してしまった。
それからの行動は早かった。
劣った人間には『愛のカプセル』という物が配られ、皆は仰天する。
アルカロイドを複雑に組み合わせた薬で、飲めば多幸感を感じている間に意識を失う。
そのままゆっくり心肺機能が停止する。
配られた人々の行動は様々だった。
怒り、愛のカプセルを床に叩きつける者。
涙を流し、感謝しながら飲み込む者。
遂にこの時が来たかと、達観する者。
説明書には但し書きがあった。
愛のカプセルが送られた劣った人間には一週間の猶予が与えられているが、その間に自死しなければ、我々が殺害しに行くと。
カプセルを飲んだ方が良かったと後悔するぐらい惨い方法でと。
ASD(自閉スペクトラム症)を持つ青年。『キシマ・ハルオ』の元にもそれは当然の様に送られていた。
ハルオは薬の目的と、説明書を読み。
「あぁ、やっと楽になれる」
そう、呟いた。
包装シートに親指を乗せ、緑色のカプセルを押し出す。
そんな時、部屋の扉がノックされた。
「マモルか?」
「そうだよ」
ドアを開けて入って来た彼は、長めの茶髪に栗色の目をし、黒いTシャツにジーンズといったラフな格好をしていた。
顔立ちは整っており、その切れ長の目でまっすぐハルオを見つめた。
マモルの方へ体を向け、ハルオが言う。
「止めるのか?」
「いいや、僕は止めも勧めもしない」
その言葉を聞いて、ハルオは安心した。
「だけど、提案がある」
親友のマモルの言葉だ、最後に聞いておこうと、ハルオは手を下ろして耳を澄ます。
「僕と、最後の旅行に行かないかい?」
「旅行?」
ハルオは思わず間の抜けた返事をしてしまった。そんな事構わないとばかりにマモルは続けた。
「ただの旅行じゃない」
「っと、言うと?」
聞き返され、マモルはニヤリと笑った。
「復讐旅行をしよう」



