受験直前の詰め込み授業がようやく終わり、生徒たちが一斉に外へと飛び出していく。その人の波に乗って水野も予備校校舎の外に出る。
外はすっかり真っ暗闇に覆われ、頼りない外灯の明かりが歩道を照らしていた。外に出た瞬間、びゅうっと吹いた北風に身体を縮こませ、息を吐くとその息も白い。季節はもう冬だ。
「水野!」
その時名前を呼ばれた。見ると先に授業を終えていた依田が目の前のガードレールにもたれかかっていた。彼の手には温かな缶コーヒーが握られていたが、いつから外で待っていたのか彼の鼻の頭は真っ赤になっていた。
「依田」
水野は急いで依田に駆け寄っていく。
「ごめん、お待たせ」
「お疲れ」
そう言うと依田は上着のポケットから未開封の缶コーヒーを取り出して水野の頬に押し当てた。
「中で待ってればいいのに」
「中で待ってたら自習していないといけない空気になるだろ。俺の今日の勉強時間は終わったんだよ」
はあ疲れた、とため息をつく依田の息はやはり白い。
「依田もお疲れ」
「……おう」
二人は揃って駅に向かって歩き出した。
予備校のクラスは違うが、それ以外の時間を二人はなるべく一緒に過ごしていた。依田がたまの息抜きを提案すれば休みの日に出掛けることもある。
そうして受験までの短い時間を過ごし、いよいよそれぞれの受験当日を迎えた。
酷く緊張している依田とは対照的に水野はやけに冷静だった。
依田の合否の結果を見るエンターキーを押したのは水野だ。緊張する依田に対して水野は何の前置きもなく躊躇いなく押した。
「水野!!!!!!!」
「依田!!!!!!!」
やったー、と依田の大声が依田の部屋中に響き渡る。その大声の直後に部屋のドアを開けたのは依田の母親だ。てっきり、うるさい、といつものようにどやされるかと思っていたが母は依田を力いっぱい抱きしめてきた。
思いきり抱き締められて苦しむ依田を水野は笑っていた。
一方、水野の合否結果を見るエンターキーを押したのは依田だった。
「依田、俺合格し……」
「水野!!!!!!」
その結果にひと際興奮していたのは水野本人よりも依田の方だった。
「水野、おめでとう!!!!」
まるで自分が合格したかのように依田は号泣すると水野を力いっぱい抱きしめた。
卒業式。
三年一組、文系普通クラスの一員として名前を読み上げられた水野をクラス一同誇りに思う。
文系普通クラスから最難関の理系国公立合格を輩出したという謎の実績に担任の芥川は終始苦笑していた。
高校生活最後の年をこのクラスで過ごして一番楽しかったと水野は迷いなく言える。
同じ都内、二人がそれぞれ通う大学のちょうど真ん中の場所で依田と水野はルームシェアを始めた。場所を決めたのは水野で、マンションを決めたのは依田だ。家具は二人で買いに行ったが、選んだのは依田だった。
ルームシェアをすると言い出したのはもちろん水野の方だった。しかしその提案を依田が驚くことはない。だって彼は依田と仲良くなりたいという理由だけで依田のいる文系に編入してきたほどの男なのだ。
「高校を卒業してからも、これからも一緒だな」
これからもよろしく。
二人はそう言うと、顔を見合わせて笑った。
(おわり)
外はすっかり真っ暗闇に覆われ、頼りない外灯の明かりが歩道を照らしていた。外に出た瞬間、びゅうっと吹いた北風に身体を縮こませ、息を吐くとその息も白い。季節はもう冬だ。
「水野!」
その時名前を呼ばれた。見ると先に授業を終えていた依田が目の前のガードレールにもたれかかっていた。彼の手には温かな缶コーヒーが握られていたが、いつから外で待っていたのか彼の鼻の頭は真っ赤になっていた。
「依田」
水野は急いで依田に駆け寄っていく。
「ごめん、お待たせ」
「お疲れ」
そう言うと依田は上着のポケットから未開封の缶コーヒーを取り出して水野の頬に押し当てた。
「中で待ってればいいのに」
「中で待ってたら自習していないといけない空気になるだろ。俺の今日の勉強時間は終わったんだよ」
はあ疲れた、とため息をつく依田の息はやはり白い。
「依田もお疲れ」
「……おう」
二人は揃って駅に向かって歩き出した。
予備校のクラスは違うが、それ以外の時間を二人はなるべく一緒に過ごしていた。依田がたまの息抜きを提案すれば休みの日に出掛けることもある。
そうして受験までの短い時間を過ごし、いよいよそれぞれの受験当日を迎えた。
酷く緊張している依田とは対照的に水野はやけに冷静だった。
依田の合否の結果を見るエンターキーを押したのは水野だ。緊張する依田に対して水野は何の前置きもなく躊躇いなく押した。
「水野!!!!!!!」
「依田!!!!!!!」
やったー、と依田の大声が依田の部屋中に響き渡る。その大声の直後に部屋のドアを開けたのは依田の母親だ。てっきり、うるさい、といつものようにどやされるかと思っていたが母は依田を力いっぱい抱きしめてきた。
思いきり抱き締められて苦しむ依田を水野は笑っていた。
一方、水野の合否結果を見るエンターキーを押したのは依田だった。
「依田、俺合格し……」
「水野!!!!!!」
その結果にひと際興奮していたのは水野本人よりも依田の方だった。
「水野、おめでとう!!!!」
まるで自分が合格したかのように依田は号泣すると水野を力いっぱい抱きしめた。
卒業式。
三年一組、文系普通クラスの一員として名前を読み上げられた水野をクラス一同誇りに思う。
文系普通クラスから最難関の理系国公立合格を輩出したという謎の実績に担任の芥川は終始苦笑していた。
高校生活最後の年をこのクラスで過ごして一番楽しかったと水野は迷いなく言える。
同じ都内、二人がそれぞれ通う大学のちょうど真ん中の場所で依田と水野はルームシェアを始めた。場所を決めたのは水野で、マンションを決めたのは依田だ。家具は二人で買いに行ったが、選んだのは依田だった。
ルームシェアをすると言い出したのはもちろん水野の方だった。しかしその提案を依田が驚くことはない。だって彼は依田と仲良くなりたいという理由だけで依田のいる文系に編入してきたほどの男なのだ。
「高校を卒業してからも、これからも一緒だな」
これからもよろしく。
二人はそう言うと、顔を見合わせて笑った。
(おわり)



