その問いに水野は真っすぐ依田を見つめ、迷いなく答える。
「依田と一緒にいたかったから」
それは以前も聞いた言葉だった。
「俺、前にも今日みたいに依田が電車で痴漢を捕まえる所を見たことがあるんだよ」
「えっ、マジで?」
「マジで」
いつ、と聞かなければ分からないほど依田は痴漢を捕まえている。
元々痴漢が多いことで有名な路線を使っていることもあるが、依田の正義感が彼らを決して許さなかったのだ。
「最初に見たのは一年の夏。夏休みに入る直前の部活の帰り」
「ああ、あの時ね」
確かあれは高校に入学して、痴漢を捕まえるのは二回目のことだった。
いくら車内が混んでいるからといって、女子高生の後ろにぴったりと張り付くスーツ姿の男に依田は違和感を覚えていた。電車が大きく揺れた瞬間、不自然に下ろされていた男の手が女子高生の足に触れているのが見えて依田は咄嗟に男の腕を掴んだのだ。
「俺も近くにいたのに何もできなかったから、凄いなって思った」
「別に凄くねえよ」
そう言いながらも依田は頬を仄かに紅潮させ、照れを隠すように頬を搔いて見せた。
「次に見たのは二年の秋。予備校に行く途中で」
依田もその時のことをよく覚えている。予備校に向かっている途中で痴漢を捕まえ、いろいろと手続きをしている間にすっかり授業の時間が過ぎてしまったのだ。
「俺も同じ電車に乗ってた」
「全然気付かなかった……」
驚く依田を水野は笑う。
「制服で同じ高校に通ってるってことはもう分かっていたんだ。あの日は依田が気になって俺も遠くから最後まで様子を伺ってた。そうしたら依田が慌てて俺と同じ予備校に入っていったから嬉しかった。……けど、クラスが違うから全然話せなくて」
学校でも理系と文系は校舎が違うから学校で会うこともなく、部活も違うので余計に接点がなかったのだ。
「そんな時にたまたま職員室で依田の進学先が聞こえた。俺は理系で、依田は文系だから当然進学先も違う。高校を卒業したらもう依田の姿も見れなくなると思うと、どうしても依田と接点が欲しかったんだ」
「だから文系に編入してきたって?」
水野は迷いなく、こくん、と頷く。
「せめて高校を卒業する前に依田と一緒にいたかった」
そう言った水野はまるでこれが最後だと言わんばかりに悲しそうに笑っていた。そんな水野の肩を依田が小突く。
「お前、俺のこと好きすぎ」
ふはっ、と依田が吹き出して笑った。
「やることが極端すぎるんだよ。突然文系普通クラスに編入するって聞いてお前の親も心配しただろ」
「それは、大丈夫」
親には依田を追いかけたくて編入すると言ってある、と自信満々に話す水野に依田がまた噴き出して笑う。
「お前やっぱり変わってんな」
腹を抱えてひとしきり笑う依田を水野は困ったように見つめていた。
依田の中での自分の立ち位置が水野には未だ分からないのだ。依田が好きだと一緒にいたい、と言ったことはあったがここまで詳細を話したのはこれが初めてだった。この気持ちが依田に受け入れてもらえるとは思い難い。残り高校生活も僅かだが、もしかしたらここで友人関係も終わってしまう可能性もある。
「なあ水野」
水野が一人悶々としていると依田が水野を呼んだ。段々と下がっていた頭を上げて依田を見る。依田は水野よりも背が低いので水野が依田を自然と見下ろす形になる。
「俺も結構お前のこと好きだぜ」
依田は歯を見せて無邪気に笑うとそう言った。
ようやく依田から貰えた返事に水野はぽかんと口を開けて放念してしまっていた。目の前で手のひらを往復されようやく我に返った水野は頬を仄かに紅潮させて笑った。
「依田と一緒にいたかったから」
それは以前も聞いた言葉だった。
「俺、前にも今日みたいに依田が電車で痴漢を捕まえる所を見たことがあるんだよ」
「えっ、マジで?」
「マジで」
いつ、と聞かなければ分からないほど依田は痴漢を捕まえている。
元々痴漢が多いことで有名な路線を使っていることもあるが、依田の正義感が彼らを決して許さなかったのだ。
「最初に見たのは一年の夏。夏休みに入る直前の部活の帰り」
「ああ、あの時ね」
確かあれは高校に入学して、痴漢を捕まえるのは二回目のことだった。
いくら車内が混んでいるからといって、女子高生の後ろにぴったりと張り付くスーツ姿の男に依田は違和感を覚えていた。電車が大きく揺れた瞬間、不自然に下ろされていた男の手が女子高生の足に触れているのが見えて依田は咄嗟に男の腕を掴んだのだ。
「俺も近くにいたのに何もできなかったから、凄いなって思った」
「別に凄くねえよ」
そう言いながらも依田は頬を仄かに紅潮させ、照れを隠すように頬を搔いて見せた。
「次に見たのは二年の秋。予備校に行く途中で」
依田もその時のことをよく覚えている。予備校に向かっている途中で痴漢を捕まえ、いろいろと手続きをしている間にすっかり授業の時間が過ぎてしまったのだ。
「俺も同じ電車に乗ってた」
「全然気付かなかった……」
驚く依田を水野は笑う。
「制服で同じ高校に通ってるってことはもう分かっていたんだ。あの日は依田が気になって俺も遠くから最後まで様子を伺ってた。そうしたら依田が慌てて俺と同じ予備校に入っていったから嬉しかった。……けど、クラスが違うから全然話せなくて」
学校でも理系と文系は校舎が違うから学校で会うこともなく、部活も違うので余計に接点がなかったのだ。
「そんな時にたまたま職員室で依田の進学先が聞こえた。俺は理系で、依田は文系だから当然進学先も違う。高校を卒業したらもう依田の姿も見れなくなると思うと、どうしても依田と接点が欲しかったんだ」
「だから文系に編入してきたって?」
水野は迷いなく、こくん、と頷く。
「せめて高校を卒業する前に依田と一緒にいたかった」
そう言った水野はまるでこれが最後だと言わんばかりに悲しそうに笑っていた。そんな水野の肩を依田が小突く。
「お前、俺のこと好きすぎ」
ふはっ、と依田が吹き出して笑った。
「やることが極端すぎるんだよ。突然文系普通クラスに編入するって聞いてお前の親も心配しただろ」
「それは、大丈夫」
親には依田を追いかけたくて編入すると言ってある、と自信満々に話す水野に依田がまた噴き出して笑う。
「お前やっぱり変わってんな」
腹を抱えてひとしきり笑う依田を水野は困ったように見つめていた。
依田の中での自分の立ち位置が水野には未だ分からないのだ。依田が好きだと一緒にいたい、と言ったことはあったがここまで詳細を話したのはこれが初めてだった。この気持ちが依田に受け入れてもらえるとは思い難い。残り高校生活も僅かだが、もしかしたらここで友人関係も終わってしまう可能性もある。
「なあ水野」
水野が一人悶々としていると依田が水野を呼んだ。段々と下がっていた頭を上げて依田を見る。依田は水野よりも背が低いので水野が依田を自然と見下ろす形になる。
「俺も結構お前のこと好きだぜ」
依田は歯を見せて無邪気に笑うとそう言った。
ようやく依田から貰えた返事に水野はぽかんと口を開けて放念してしまっていた。目の前で手のひらを往復されようやく我に返った水野は頬を仄かに紅潮させて笑った。



