さいかい

 今木航だ。俺の実の妹だ。彼は腹から実妹に幾年ぶりに再会出来た喜びが体中に駆け巡り自然と笑みが生じかけた。しかし直ぐに現実に戻された。今、目の前にいるのは確かに一人の落ち着いた女性だ。しかし中身は記憶の中に居た幼い妹と変わらない。計算高く自分しか良しとしない人間だ。秋絵は敢えて朗らかに答えた。「お久しぶりです。勿論覚えています。お元気でしたか。」航は予想通りあくまで落ち着いて返答してきた。うん。お陰様で元気だったよ。秋絵さんは。そして直ぐに沈黙がその場を支配した。彼も人間だ。先程まで腐りかけていたとはいえ実妹の関心は意外な程まだ生きていた。ご飯は食べれていますか。仕事は何をしているの。何故俺にわざわざ声をかけてくれたのでしょうか。しかし彼は実際にはどれも聞かず子どもの様に笑顔を顔に貼り付けた。何かで読んだ事がある。笑顔はその人の立場によって全く意味が異なるのだと。今木航はそんな兄を矢張り冷たい眼差しで観察した後、静かに答えた。「元気そうだね。良かった。」そういうなりスタスタと去っていた。秋絵は暫くその場から動けなかった。