その声で囁くな!




「一条はコロッケパンをよく買うが、コロッケが好物ということか?」
「んー?」

いつものように、並んでお昼を食べていたところ、愛し気な瞳でコロッケパンを頬張る俺を見つめ、倉峰が聞いてきた。

「いや別に、コロッケが好物ってわけじゃないかな。普段は買わないし、なんというか購買のコロッケパンが特別というか......」

うーんと考えていると、倉峰がジッとこちらを見てくる。

「好き」
「っ!」
「そうか、一条は購買のコロッケパンが、好きなんだな」
「え⁉ う、うん......」

倉峰がくすっと微笑んだ。
急に好きと言われ俺の心臓が跳ねる。だけどすぐに、自分に言われたわけではないと気付いて、慌てて動揺を隠した。

だが、一度跳ねた心臓は簡単には収まってくれず、ドキドキが止まらなくなる。
倉峰の『好き』と言ったタイミングと間が絶妙で、自分に言われたように感じてしまった。恥ずかしくて、じんわりと赤くなる。

その声にはどこか甘い響きがあって、俺はこの声に囁かれると......もうダメで。

「じゃあ、何か他に好物はあるか?」

倉峰は普通に会話を続ける。もじもじと、赤くなった顔を隠しながら俺は答えた。

「え、えっと、唐揚げとか豚カツとかかな......」
「好き」
「バッ.........」

もう一度『好き』と、とてつもなくいい声で言われ、キュンとした心臓が口から出そうになる。
思わずバカッ! と言いそうになり、口をつぐんだ。

無駄にいい声しやがって! 変なタイミングで好きとか言うな‼
大好きな声で好きと言われ、それが自分に向けてじゃないと分かっていても、勝手に心がときめくのを止められない。

かといって、意識して言っているわけじゃない倉峰に対し、詰ることもできない。
俺は口を押さえて、悶えそうになるのを必死で堪えた。

「揚げ物が好きなんだな。また一つ一条のことが知れて嬉しい」

倉峰は瞳を和らげて微笑んだ。
美声で何度も好き好きと言われ、その上真正面からイケメン満載の顔で微笑まれる。俺は高鳴る胸をバレないように隠し、冷静を装い頷いた。

「俺も、揚げ物は好きだが、やはりハンバーグが一番好物だな」

うん! ハンバーグが好きだって前に言ってたよな!
口から手を離すと、赤くなった顔がバレてしまう。心の中で返事を返す。

そんな俺の様子をちらりと見て、倉峰がフッと吐息を零して吹き出した。
倉峰の手が伸びてくる。その手が俺の頬に触れて、もう片方の腕が腰をグッと引き寄せた。

「唐揚げも豚カツも、ハンバーグも好物で好きだが......」

そして俺の耳元に倉峰は唇を寄せた。

「一番の好物は、一条桃哉だ。俺の声一つで、こんなに赤くなる一条が可愛くて、何よりだいすきだ......」

先ほどの好きとは比べようもならないぐらい、甘く艶っぽい美声で倉峰が囁く。
その上おまけとばかりに、ふうと息を耳に吹きかけてきて。

「~~~~~~‼‼」

まるで煙が出るように、一瞬で俺はぽひゅっと真っ赤っ赤になった。

溶けそうな耳を押さえると、目が合った倉峰はいたずらっぽく瞳を細め、満足そうに微笑んだ。

それに俺はすべてを悟る。

「お前‼ 全部ワザとだな~~!」
「俺は、一条に大好きだと伝えたかっただけだ」

睨む俺を、とろけるよな瞳で見つめ、倉峰がチュッと耳を押さえた俺の手の甲にキスをする。

「っ......!」

俺は動きを止め、驚きに目を見開いた。

「ああ......その顔も好物だ。一条は全部が可愛いな」

陶酔しきった表情で、愛し気に倉峰が目尻を下げる。

俺は恥ずかしさ、嬉しさ、ときめき、色んな感情が混ざり合い、堪えきれずぷるぷると震え出した。

「もお......もお~! お前はほんとにっ......」
「ん?」

愛し気に微笑む倉峰を、

「バカァッッッーーー‼‼‼」

さっき言えなかったセリフで、今度こそ思いっきり詰ってやった。

真っ赤になり、もはや涙目の俺を、倉峰は相変わらず緩み切った笑顔で見つめていた。







「たくっ......こんな公共の場でイチャイチャして、恥ずかしくないのかしら」

そんな二人を草陰で見つめながら、美菜子がそう呟く。

「そう言いながら、三宅先輩めちゃくちゃ顔にやけてますよ」

隣にいた、武田がそれを突っ込む。

「それはそれ、これはこれよ! はぁ......何この体の奥底から湧き上がる生きる活力のような気持ち......推し(カプ)しか勝たんとはこういうことだったのね」
「ほんと......ありがとうございます」

二人を見つめ手を合わせ拝む武田に、美菜子が反応する。

「あんた、なかなかいい趣味じゃない」
「三宅先輩も、見る目ありますね......」

そして二人はがっちりと握手を交わした。

二人を全力で推す(応援する)人間は、さらに増殖中、らしい。