神社ってね、感謝をするところなんだよ

栄ケ丘高校は、地元でそれなりに人気のある学校らしい。「倍率も結構高い」って、お父さんから聞いた。

5月。
新緑の季節。

昇降口まで続いていた桜。
いつの間にか緑の通路へと変わってる。

森の中を歩いてる気分になる。

「……じゃあ、次の議題ね!」

学級委員長の佐々木さんが、勢いよく教卓を叩いた。

「青汁を飲むところまでは決まったけど……あと、何かある?」
「これだけでいい?」

6月下旬に「栄高祭」という文化祭があるらしい。今月からは各クラスが本格的に出し物を計画していく。

地域の人達や、他の高校生も遊びにくるようで、みんなソワソワしているのが分かる。

「……誰か、意見のある人――?」
「……おい!」
話合いという名目で、みんな楽しそうにしゃべっている。佐々木さんも大変だなぁ……と思いながら、黒板を見つめる。

「んー……? 勇太くんは、何か意見がありそうだね?」
佐々木さんの目線が、窓側の列に向いた。

(勇太くん……あ、あぁ……この前、楓くんと一緒に帰ってた人)

チラリと窓側の列に目を向ける。

「あっ……いやぁ……そうだ!」
ガタン!と太ももを机にぶつけながら、勇太くんが立ち上がった。

「ビスケット!……とか、どう? ……でしょう」
「……ビスケット?」
「そう」
「……ビスケット……」
「そう」

(……何? この2人……)
お互い何度も同じ言葉を繰り返す。
思わず笑いそうになるのをこらえた。

「どう?」
「……青汁と一緒に?」
「いや、最初に青汁飲んで、で、次にビスケット食べるんだよ。逆でもいいけど」
「……ふぅーん」
「青汁は苦いし、ビスケットはパサパサでしょ? 飲みにくいし、食べにくいし……良くない?」
「なるほど……他に何かある人、いる?」

(……あー、なるほど)

「誰もいないのー?」
どうやら皆、「それで良いんじゃないか」という雰囲気。

「……じゃあ、決定ね」

「……よっしゃー!」
「勇太くん、おめでとう!」
「なかなか良いアイデアだったでしょ」
「まぁね。じゃあ、買い出しよろしく頼んだわよ」
「……んっ?」
「ビスケットとか。他に色々。あんたが出してくれたアイデアでしょ?」
「えぇー……」
「楓くんと行ったらいいじゃん」
「……」

栄高祭に向けて、それぞれが役割を担っていく。

買い出しに行く人。
ポスターを作る人。
クラスTシャツをデザインする人。
教室内掲示物を作る人。

吹部の人と、ダンス部の人は当日に発表があるので免除されるらしい。

(……良かった)

私は一人、胸を撫で下ろした。
修学旅行の班決めみたい……。

私を誘ってくれる人は、どうせいない。

(部活やっててよかったよ)

休み時間はいつも以上に賑やか。
栄高祭に向けて、皆のテンションが上がってるんだろうな。

皆の声が半音高いもん。
私はいつものように突っ伏して寝る。

「……ねぇねぇ、あのさぁ……」
「……結城さん?」

はじめ、私を呼んでいるとは思わなかった。
「……え?」
ベッド代わりに使っていた机から、ゆっくりと背中を起こした。
「……何? わたし?」
「うん」

(……楓くんじゃん……何?)

「あのさぁ、もし時間あるなら……買い出し、一緒に行かない?」
「……えっ? 買い出し? さっき決まったやつ?」
「そう。部活で忙しくなければ……だけど」
「あっ……うん。大丈夫」
「ほんと?」
「うん」
「あー……良かった! じゃ、買い出し一緒に行こう」
「うん。分かった」

(……ほんと? やった……!!)

急に視界が明るく見えた気がする。
もやっとしていた頭の中。
ちょっとだけ霧が晴れた気がした。