神社ってね、感謝をするところなんだよ

「熊本はさ、街の作りが他の県と違って、面白いんだよ」とお父さんが昔いってた。

確かに、実際に歩いてみると……お店がたくさんあるアーケード以外のところには、お店が全くない。

遊んだり、ご飯を食べたりするには……そこに行くしかないっぽい。

「お店、アーケードの方しかないっぽいね」
「ね。お城の周りには何も無いなぁ……」
「もうお城も入れないし。そっち行ってみる?」

時間も5時半を過ぎてきた。

楓くんもそろそろ晩御飯のことを考えてそうだな……と思い、わたし達はお城を後にする。念のため、自販機で水を買っておいた。

「でもさ、いい思い出ができたなぁー……」
「写真のこと?」
「そう。だって……よくない?」
「そうだね」
「磯子じゃないんだよ?」
「うん」
「私服だよ? プライベート感が凄いじゃん!」
「うん。美咲ちゃん、テンション高いな」
そういうと楓くんは静かに笑った。

「あ、こっち通ってみたい」
お城の坂を下りると、堀に沿って散歩できるコースがあった。

「あ、ここ……通れるんだ」
「ぽいね。行ってみていい?」

ご飯も食べたい。

……でも正直、歩くのがもう、限界だった。ちょっと……座っていたい。

日陰になった所にベンチがある。フラフラっと座ってしまうと、楓くんにバレてちゃうかも知れないから……「よいしょ」っと声を出して座る。

「いや、お城は……ちゃんと調べてくれば良かったね。すっごい迫力じゃん」
わたし達の後ろにある、お城。楓くんは珍しそうに見上げる。

「横浜にはないもんね」
「そうそう。……失敗したなぁ」
「またいつか、こようよ」
「そうだね。美咲ちゃんって、この辺りに住んでたの?」
「うーん……微妙なとこだなぁ……ちょっと離れるかな」
「そうなんだ」
「北区ってとこ。電車で……どうだっけ。15分くらいだった気がするな……」
「へぇ……北区か」
「あっ、ダメだよ。区って言っても磯子とかと同じにしたら」
「あ、あぁ……」
察してくれたかのように、笑ってくれた。

「明日、行くんでしょ?」
「……うん。行っていい?」
「行こうよ。そのために来たんでしょ」
「そうだね……」
ちょっとうつむきながら、わたしはペットボトルを握り締める。

「でも、嬉しいな」
「……何が?」
「なにって……こうやってさ、楓くんが一緒に来てくれたこと」
「……」

散歩をする人たちが、汗をぬぐいながら……わたし達の近くを歩いていく。

「ねえ」
「……何?」
「肩、貸して?」
静かに、楓くんの肩に頭を乗せた。

「体調、大丈夫なの?」
「……暑かったけどね……なんとか大丈夫」
「そう……」
「……わたし、好きになった人が……楓くんでよかったよ」

日陰に少し風が吹き込んでくる。段々と……意識も遠のいていく。

「俺も。美咲ちゃんで良かったなって思ってる」
「ほんと?」
「うん」
「……泣けるこというなぁ……」
「……ちょっと。何」
「ほんとはねー……2泊じゃなくて、もっとたくさん行きたい場所、あるんだ」
声が震えて……上手くしゃべれない。涙も頬を伝ってきた。

「ここで?」
「そう。阿蘇とかさ……温泉とか、色々。わたし、行ったことないんだよね」
「また来ようよ。いつでも来れるでしょ?」
「……」
「将来、免許も取ってさ。2人で色々回ろう」

「うん……でもこっちでも色々あったけど……磯子で楓くんと出会えたけど……どっちも好きかなぁ……とにかく2人でいられれば、それだけでいいよ」
「そうだね。俺も。ちょっと前までじゃ……考えられない」
「ははっ……面白いよね……」

しばらく楓くんは無言になった。

「ね、美咲ちゃん」
「……なに?」
「……ホテル、戻ろっか」
「えっ……?」
「俺さ、初めての場所だから……ちょっと疲れちゃって」
「……」
「ごめん。ちょっと戻って良い?」

わたしは拒否できなかった。

……もう限界を越えていた。
……あぁ……暑すぎるのがいけないんだ……そう思いながら、楓くんの腕に巻き付くように……倒れ込むようにホテルへと歩いた。

もう、真っすぐ歩くことすらできない……
「……ごめん」
「何」
「……ほんとにごめん」
自分の部屋の前。

なんとか絞り出した言葉は……ごめん。だった。

「良いって」
「……ごめん……」
「そんな泣かなくって良いって」
「だって」
「また来れば良いって。……それより……ちゃんと寝て」
「……うん……寝る」
「何かあったら、言って? 分かった? 熱、結構あるでしょ?」
「うん……」
「熱以外でもだよ? すぐ言って」
「……分かったってば……」

息が苦しい。
細く呼吸しないと……息が入ってこない。
楓くんの手。わたしを部屋の入口まで連れていってくれた。

「……1時間経ったら、部屋コンコンするから」
「……だいじょぶだって」
「いや……まぁ……一応」
「分かった。……ここまで来たのに……ごめん」
「良いって。早く寝て」

部屋に入ると、すぐに布団に入った。

……襲ってきたのは物凄い寒気……持ってきた薬をなんとか飲み込み、震えながら布団を被る。

(……痛っ)

おへその左側……なんでだろう? 刺すように痛みが走る。

(ヤバい……寝なきゃ……)

痛みは一瞬だけだった。熱のせいで、意識が遠のいていく……気付けば、わたしは眠っていた。

(……ごめん)