発券場。
城内に入場するためには、ここでチケットを買う必要がある。
ここでわたし達は衝撃的なものを目にした。
『最終入場16:00』
「思い出にスマホでたくさん写真を撮ろう」と意気込んでいたわたし達は、顔を見合わせて笑った。
「今、何時だっけ?」
「……もう夕方の5時前」
わたし達と逆方向。お城からたくさんの人達が坂を下りて行った理由がようやく分かった。
「そりゃ、うちらと同じ方向に進む人、いるわけないよ」
「いやー……やっちゃったな」
「ごめん。わたしがホテルで寝てたから」
「いや。そもそも4時までだから。仕方無いよ」
後ろ髪を引かれながら、わたし達は発券場を後にする。
(ほんとは行きたかったけど……結構ヤバいから……よかったかも)
熱のせいなのか、よく分からないけど……遠のいていく意識を頑張って保つので、精一杯になってきている。
まだ頭痛はしない。でも、かなり寒気がしてきた……
(せっかく来たんだから……もうちょっと頑張れ。わたし)
「さっきさ、坂の途中にお店みたいなの、あったよね」
わたしはなんとか意識を保つので精一杯で、気が付かなかった。
「あったっけ? お店なんか」
「うん。どうせ戻る途中にあるから……下りよう」
来た道を戻っていく。
楓くんの言った通り、坂の途中、横に曲がると大きな広場が出てきた。そこにはたくさんのお店。そしてたくさんの観光客で賑わっている。
「……ちょっと寄ってみて良い?」
「うん。せっかく来たしね。行ってみようよ」
賑やかな雰囲気に誘われて、わたし達は敷地内に足を踏み入れた。
「ちょっと待って。カーディガン、ちゃんと着るから」
腕にかけていたか―ディガンに袖を通す。
「……暑くない?」
「暑いよ?」
わたしは嘘をついた。
「紫外線が凄いからさ。仕方ないよ。さ、行こう!」
敷地内からはたくさんの笑い声。そして美味しそうな匂いが漂ってくる。
いくつくらいだろう。20ほどのこじんまりとしたお店が、所狭しと並ぶ。敷地の広さの割に、たくさんの人がいて、わたしは目まいが酷くなる。
「ここ、まだ平気なのかな」
「……えっと……夕方6時までだって」
「何か食べてみたいけどなー……そう言えば、美咲ちゃん晩御飯考えてある?」
「……いや、なんにも考えてなかった。なにかあるでしょ、くらい……」
ちょっと引きつった笑い。体調不良の中で笑うって、こんなに大変なんだ……。
「後で、楓くんと相談しなきゃなって思ってたんだよ」
「そっか。……ちょっとアイス食べたいんだよね」
右前には、抹茶をベースにした飲み物や食べ物を売っているお店。
「良いなぁ……でも、冷たいしな……。ちょっと分けてもらってもいい?」
「あ、うん。そうしようか」
相談の結果、抹茶ソフトを1つ買い、小さなプラスチックのスプーンを2つもらうことにした。
「溶けちゃうよ」という楓くんの言葉に従って、ベンチで座って食べることにした。小さなスプーンを使って、交互に食べていく。一口ずつ。
「どうしようかね、晩御飯。楓くんはなにか食べたいもの、ある?」
「えー……難しいな。せっかく来たから……とは思うけど……」
「馬刺しが有名だね。ここは」
「馬刺し……馬の刺身ってこと? いやー……苦手かもなぁ」
「ははっ! そうだよね。わたしも食べたことないよ」
「そういう感じかぁ。……俺は全然、普通のご飯で良いけどな」
その時だった。
「……すみません」
たどたどしい日本語で声をかけられる。わたし達の前に立つ女性。ふと見上げると、外国人だった。どうやら旅行客みたいな雰囲気。
「……はい」
「あの、写真撮ってもらえませんか?」
「写真ですか?」
「はい。お願いできますか?」
「はい! わたし、撮りますよ」
ほんとはずっと座っていたい。いや、本音はホテルで解熱薬を飲んで……すぐにでも寝た方がいいはず。体の芯からゾクゾクし始めてきた。
でも、なぜだろう?わたしは外国人女性からスマホを受け取り、立ち上がった。
「……どこで撮りましょうか?」
ぎこちない笑顔も、段々と様になってきた。
「ここでお願いします」
お店が背景として写り込場所へと移動して、外国人の女性はポーズを取った。
「……撮りますねー! はい、チーズ!」
「ありがとうございます……!」
「いえいえ。大丈夫です」
スマホを女性へと渡す。
「あの、あなた達の写真も……撮りましょうか?」
「……えっ? いいんですか?」
「はい。写真、撮って頂いたので」
「ねえ! 楓くん! 写真撮ってくれるって!」
「……写真?」
楓くんのところに戻ると、もうそろそろソフトクリームを食べ終わる時だった。
「うん。さっきの外国人の人、撮ってくれるって」
「あ、うん。今行く」
「どこで撮りましょうか」
「……んー、じゃあここで。お願いします!」
「え? そこだと……滅茶苦茶、人が多くない?」
楓くんは不思議そうな顔をしていた。
「いやいや……それがいいんだって」
わたしは小声で楓くんに呟いた。
「ねぇ、もっとこっちきてよ」
「あ、あぁ……。これくらい?」
「もうちょっと」
わたし達はピタリと肌を寄せるようにくっついた。……ついでに楓くんの右腕にギュッと巻き付く。
「カーディガン、脱がなくて良いの?」
「平気、平気」
「なら良いけど」
「よし! 撮ってもらおう!」
「写真、お願いします!」
女性は「はい、チーズ」と流ちょうな日本語。スマホのシャッターボタンを3回押してくれた。
そして別れ際に「素敵な恋人同士ね。お幸せに」と言ってくれた。
――育った場所で撮れた。わたし達の、大切な思い出の写真。
城内に入場するためには、ここでチケットを買う必要がある。
ここでわたし達は衝撃的なものを目にした。
『最終入場16:00』
「思い出にスマホでたくさん写真を撮ろう」と意気込んでいたわたし達は、顔を見合わせて笑った。
「今、何時だっけ?」
「……もう夕方の5時前」
わたし達と逆方向。お城からたくさんの人達が坂を下りて行った理由がようやく分かった。
「そりゃ、うちらと同じ方向に進む人、いるわけないよ」
「いやー……やっちゃったな」
「ごめん。わたしがホテルで寝てたから」
「いや。そもそも4時までだから。仕方無いよ」
後ろ髪を引かれながら、わたし達は発券場を後にする。
(ほんとは行きたかったけど……結構ヤバいから……よかったかも)
熱のせいなのか、よく分からないけど……遠のいていく意識を頑張って保つので、精一杯になってきている。
まだ頭痛はしない。でも、かなり寒気がしてきた……
(せっかく来たんだから……もうちょっと頑張れ。わたし)
「さっきさ、坂の途中にお店みたいなの、あったよね」
わたしはなんとか意識を保つので精一杯で、気が付かなかった。
「あったっけ? お店なんか」
「うん。どうせ戻る途中にあるから……下りよう」
来た道を戻っていく。
楓くんの言った通り、坂の途中、横に曲がると大きな広場が出てきた。そこにはたくさんのお店。そしてたくさんの観光客で賑わっている。
「……ちょっと寄ってみて良い?」
「うん。せっかく来たしね。行ってみようよ」
賑やかな雰囲気に誘われて、わたし達は敷地内に足を踏み入れた。
「ちょっと待って。カーディガン、ちゃんと着るから」
腕にかけていたか―ディガンに袖を通す。
「……暑くない?」
「暑いよ?」
わたしは嘘をついた。
「紫外線が凄いからさ。仕方ないよ。さ、行こう!」
敷地内からはたくさんの笑い声。そして美味しそうな匂いが漂ってくる。
いくつくらいだろう。20ほどのこじんまりとしたお店が、所狭しと並ぶ。敷地の広さの割に、たくさんの人がいて、わたしは目まいが酷くなる。
「ここ、まだ平気なのかな」
「……えっと……夕方6時までだって」
「何か食べてみたいけどなー……そう言えば、美咲ちゃん晩御飯考えてある?」
「……いや、なんにも考えてなかった。なにかあるでしょ、くらい……」
ちょっと引きつった笑い。体調不良の中で笑うって、こんなに大変なんだ……。
「後で、楓くんと相談しなきゃなって思ってたんだよ」
「そっか。……ちょっとアイス食べたいんだよね」
右前には、抹茶をベースにした飲み物や食べ物を売っているお店。
「良いなぁ……でも、冷たいしな……。ちょっと分けてもらってもいい?」
「あ、うん。そうしようか」
相談の結果、抹茶ソフトを1つ買い、小さなプラスチックのスプーンを2つもらうことにした。
「溶けちゃうよ」という楓くんの言葉に従って、ベンチで座って食べることにした。小さなスプーンを使って、交互に食べていく。一口ずつ。
「どうしようかね、晩御飯。楓くんはなにか食べたいもの、ある?」
「えー……難しいな。せっかく来たから……とは思うけど……」
「馬刺しが有名だね。ここは」
「馬刺し……馬の刺身ってこと? いやー……苦手かもなぁ」
「ははっ! そうだよね。わたしも食べたことないよ」
「そういう感じかぁ。……俺は全然、普通のご飯で良いけどな」
その時だった。
「……すみません」
たどたどしい日本語で声をかけられる。わたし達の前に立つ女性。ふと見上げると、外国人だった。どうやら旅行客みたいな雰囲気。
「……はい」
「あの、写真撮ってもらえませんか?」
「写真ですか?」
「はい。お願いできますか?」
「はい! わたし、撮りますよ」
ほんとはずっと座っていたい。いや、本音はホテルで解熱薬を飲んで……すぐにでも寝た方がいいはず。体の芯からゾクゾクし始めてきた。
でも、なぜだろう?わたしは外国人女性からスマホを受け取り、立ち上がった。
「……どこで撮りましょうか?」
ぎこちない笑顔も、段々と様になってきた。
「ここでお願いします」
お店が背景として写り込場所へと移動して、外国人の女性はポーズを取った。
「……撮りますねー! はい、チーズ!」
「ありがとうございます……!」
「いえいえ。大丈夫です」
スマホを女性へと渡す。
「あの、あなた達の写真も……撮りましょうか?」
「……えっ? いいんですか?」
「はい。写真、撮って頂いたので」
「ねえ! 楓くん! 写真撮ってくれるって!」
「……写真?」
楓くんのところに戻ると、もうそろそろソフトクリームを食べ終わる時だった。
「うん。さっきの外国人の人、撮ってくれるって」
「あ、うん。今行く」
「どこで撮りましょうか」
「……んー、じゃあここで。お願いします!」
「え? そこだと……滅茶苦茶、人が多くない?」
楓くんは不思議そうな顔をしていた。
「いやいや……それがいいんだって」
わたしは小声で楓くんに呟いた。
「ねぇ、もっとこっちきてよ」
「あ、あぁ……。これくらい?」
「もうちょっと」
わたし達はピタリと肌を寄せるようにくっついた。……ついでに楓くんの右腕にギュッと巻き付く。
「カーディガン、脱がなくて良いの?」
「平気、平気」
「なら良いけど」
「よし! 撮ってもらおう!」
「写真、お願いします!」
女性は「はい、チーズ」と流ちょうな日本語。スマホのシャッターボタンを3回押してくれた。
そして別れ際に「素敵な恋人同士ね。お幸せに」と言ってくれた。
――育った場所で撮れた。わたし達の、大切な思い出の写真。



