神社ってね、感謝をするところなんだよ

スマホってほんとに便利だと思う。

わたしはそんなにしょっちゅう飛行機に乗るわけじゃない。

でも、分からないことがあれば……すぐに調べることができる。

人が多いのはキツいけど……2人で熊本まで行くことは、そんな難しいことじゃないんだ……と思った。

「どうしようか? もう入っちゃおうか」

空港の出発ロビーには、溢れそうなくらい人が多い。きっとお盆が近いからなんだと思う。「よくホテル取れたな……」と、心の中でお父さんに感謝した。

「うん。……早く静かなとこ、行きたい」

手荷物検査場を抜けて、わたしたちは出発口に早めに行くことにした。

わたし達の乗り場は、一番奥。かなりの距離を歩く。

(……ちょっとキツいな)

元々、朝から体調が悪いのに加えて、普段あまり乗らない満員電車。目まいがだいぶ酷くなっていた。

(早く座りたい)

「……体調、悪そうだね」
「そう? そんなことないよ?」
「ちょっと顔色悪い感じ、するけどな……」

ほんとは、今すぐにしゃがみ込みたい。でも必死に我慢している。……さすがに顔色までは、隠せないよ……。

「……さっき人ごみが凄かったから……かな」背筋を伸ばして歩く。

「ちょっと何か食べたいんだけど……いいかな」

気を紛らわせたいという思いもあったけど、実際に朝から何も食べていなかった。

「そうだね。お昼前に出発だから……俺も少し何か食べたいな」

奥の方まで歩くと、賑やかなお土産屋さん。そしてお弁当など売っている小さなお店が見える。

「どうしようか」
「……」
お土産屋さんの横のエスカレーター。ふと見上げると、上の階にお店を見つけた。「ご飯が食べられそうだな」と思った。

「ねえ、あの上に行ってみていい?」
「あ、うん。……お店あるね」

短いエスカレーターを上ると、喫茶店が少し大きくなったようなお店。中をチラリと覗くと、サラリーマンや女性のグループが何人かいるだけだった。

「ここにしていい?」
「空いてるし、良いかもね」
窓からは滑走路も見える。わたし達はこのお店に入ることに決めた。

「……意外とないな」
がっつりとした食べ物はあまり置いてない。わたしはカレーを注文することにした。

「……半分食べてもらってもいい?」
「うん。そしたら……俺も同じにしよ」

ここまで来るのに、一苦労。すでにかなり体力もなくなっていた。……しかもかなりダルくて熱っぽい。

(……早く飛行機の中で寝たい)

飛行機が出発するまで、まだ1時間ちょっとある。「この1時間……なんとか耐えないと」

周りにはあまり人がいないことだけが、せめてもの救いだった。

「ちょっと寝て良いかな」
カレーを食べ終わった後、楓くんが提案してくれた。

「……実はさ、緊張してて……あんま寝てないんだよね」

絶対に気付いているんだと思う。わたしに体調のことをいっても「大丈夫だよ」と返すこと、分かってるんだよね……。

「あー……そうだね。わたしも、ちょっと疲れたなぁ」

椅子に腰を下ろして、少し眠ることができた。

飛行機は格安航空。中はそんなに広くはない。2人で隣に座ると、あまりの距離の近さにドキドキする。

(なに……こんなに近いんだ……)

お互いの服と服が、少し擦れ合うくらいに近づく。 

「……近いね。何だか緊張する」
「ね。わたしも……」
「飛んで間、たぶん俺……寝ちゃうと思う。良い?」
「あっ……うん。大丈夫。わたしも寝ようかな」

薬は一応、追加で飲んだ。時間的にもたぶん眠くなるはず……。

「手、繋ぐね」
「えっ……」

そっとわたしの手を握ってくれる。楓くんは特になにもいわなかった。

機内の照明が落ち、飛行機が動き出す。もうこの段階で眠気が襲ってくる。

ウトウトする……というよりは……強制的に視界が遮られそうな感じ。寒気もあるし……呼吸も少し苦しい。

(……絶対、熱あるじゃん。これ……)

他のお客さん達が半袖で暑そうにしている中、わたしは1人、カーディガンを羽織る。

「……出発だねぇ……熊本に」
わたしがこの後、寝てしまうのを分かっているかのように……楓くんが話かけてくれる。

「そうだね……緊張するよ」
「緊張するの? この前までいたのに」
「……緊張するよ……はぁ……」
「……いつも通りで良いと思うよ」
「うん」
「……じゃ、そろそろ寝ようかな」
「あっ、お休み。わたしも寝ちゃうと思う」
「うん。……目が覚めたら熊本か……」
「ね。あっという間だと思うよ」
「そうだね」
飛行機は一気に加速して、青空の中、上空へと高度を上げていく――

(……いよいよか…緊張するな)

体調の悪さ、緊張。

このドキドキはどっちのものなのか……よく分からない。たぶん、両方なんだろうな……と思いながら、わたしは静かに目を瞑った。