朝。
目覚めは最悪――
(……どんだけ呪われてるんだ――)
別にわたしは神様がいるとか、いないとか……信じてないけど、さすがに神様を恨んだ。
「……なんで今日なのよ」
熱は明らかに上がっている。……頭も痛い。お腹が痛くないのが幸い。……これで幸いっていうの?
朝7時。ギリギリまで布団で汗をかく。
わたしが出掛けた後、着替えをお父さんに見られちゃうけど……それはもう仕方ない。
(あー……昨日、色々準備しててよかったー)
カーテンの向こう側は、とっても眩しい。旅行には最高の天気になってるっぽい。
でも、わたしの体と心は重い。ここ最近はずっとこんな感じだったけど……「なんで今日なの」と思う。
熊本は暑い。いや、熱い。
…もちろん、横浜だって暑い。でも熊本は確か……湿度が凄かった気がする。
春から横浜に引越しをしてきて、まだ半年くらいなのに……「あの」暑さを、どこか忘れてしまっている。本来ならTシャツだけでいいはずだけど、カーディガンを持っていく必要があることを、恨めしく思った。
お父さんはとっくに会社に行っている。
家を出る直前に、わたしはやることが2つあった。
「行ってくるよ」
わたしは笑顔でこっちを見ている茜の前に座わる。
「ねえ。あんた、今どっちにいるの?」
「まさか、あの家にはいないよね?」
「……まぁ……とりあえず、行ってくるよ」
「ちょっとキツいけどさ」
「頑張ってくる」
「……なにかあったら……わたしのこと……助けてよ?」
「ねえ」
「お願い」
手を合わせて、わたしは鍵を掛けた。
そしてもう一つ。
「行ってきます!」
「準備色々、ありがとう! 大好きだよー」
お父さんにラインを入れた。
(よしっ……行くか)
わたしはキャリーケースを引きずりながら、磯子駅へと向かった。
「美咲ちゃん、お早う」
楓くんの声を聞いて、ほんとに旅がスタートするんだ……と、改めて感じる。
「……おはよ!」
「大丈夫? 体調は」
「もう……そればっかじゃん。平気だよ」
「じゃ、行こうか」
「……うん」
熊本へ行くルートは、新幹線ではなくて飛行機を選んだ。新幹線は窓からの景色を見ることができるから……「エモいな」って思っていたけど、結局熊本までかかる時間を優先させた結果、飛行機になった。
(心配し過ぎなんだよ、お父さん……)
横浜駅まで、JRで向かう。
わたしはあまり朝から学校へ行けた試しがない。体調が悪いことが多かったから、遅刻して行ったり、お昼から行くこともあった。
「……この人の数、絶対にヤバいよねぇ……」
改札口に次々と吸い込まれていく、沢山の人。
もうこの段階でキツい。目まいがする。
「いや、大丈夫」
さらりと楓くんがいってのけた。
「……なんで? めっちゃいるよ?」
「始発があるから」
そう。磯子駅は始発電車が出る駅でもある。
学校へ行く時は、あまり有難みを感じることはなかったけど……。
「……そうかぁ、始発があるのか……」
「うん。座るのは難しいかもだけど、これならまだマシでしょ」
わたし達は、駅のホームで始発電車を待つ列に並んだ。
横浜駅。色々な路線に乗り換える、中継地点の駅でもある。
学校がある山手駅は、磯子駅からたった2駅で、しかも住宅街。……降りてしまえば、人はほとんどいない。
それに引き換え、朝の横浜駅はもの凄い。「一体、どこから沸いてきたのか」と思うほどの人。人の流れに上手に乗っていかないと、歩くことすらままならない……。
電車を降りて、改札口まで黙って進む。そのまま東口の方へと歩いていく。ここでもまた、人の流れに乗っていかないと、目的地まで辿り着けない……。
「……凄い人だよね……気持ち悪くなってくる」
「ね。山手駅で降りてる俺達には、異世界だよ。これ」
「これは……キツい」
「美咲ちゃん、大丈夫?」
「……うん。でも、集中してないと、目まいがするかも」
ちょっとだけ開けた場所に出ると、日差しが入り込んでくる。
「はぁ。……サラリーマンて、あんな大変なのかよ」
「ね……。しかも毎日でしょ」
「俺、無理だな」
「ははっ……わたしも」
「……どこに向かってんの?」
「バス乗り場だよ。ワイキャットっていうみたい」
「ワイキャット?」
「うん。高速バスの乗り場の名前なんだって」
「……へぇ」
地下の通路を歩き、正面に大きなデパートが見えた。
「あ、あれ右」
「右ね」
小さいエスカレーターを上ると、こじんまりとしたバス乗り場が姿を現した。
「……知らなかった。こんな場所、あるんだ」
「わたしも初めてきたよ」
「そうなの? でも熊本から来た時、飛行機じゃないの?」
「……あんま覚えてないんだ」
受付でチケットの買い方を聞いて、羽田空港までのチケットを買う。
「良いね。静かで」
空港までは電車で行くルートもあるらしかった。横浜駅で降りないで、東京の方まで行ってから途中で乗り換える。
「美咲は横浜駅からバスで行った方が良いだろうな」とお父さんがいっていた意味が、ようやく分かった。
「……電車で行ってたら、倒れてたね。途中で」
「俺も。熊本に行く前に力尽きてたと思う」
「お父さんの言うこと聞いて……良かったよ」
磯子駅からここまで、あまりの人の多さにずっと集中していた。電車内はパンパンで、今のわたしにとっては空気は最悪だった。少し気持ち悪い。
(……あー……)
ちょっと気が緩み、急に目まいがしてくる。
人の多さが凄かったのもあるだろうけど、たぶん熱もだいぶ出てる……。
「ちょっと待ってて」
わたしは荷物を置いて、トイレに行く。……薬を飲むために。
バス出発時間まで、まだ20分もある。
「飛行機、何時に出るやつなの?」
「……えっと」
今回、お父さんが色々と手配してくれた関係で、楓くんは細かい時間を全く把握していない。
「11時半、だね」
「空港まで、こっからどれくらいなの」
「……確か、30分掛からないくらい」
「そっか。じゃ、空港で結構待つね」
「そうだね。念のため余裕持っておこうと思って」
バスに乗り込み、一番後ろの席に座る。
「それでは発車します……シートベルトを……」
運転手さんのアナウンスが始まった。
……わたし達の旅が、本格的に始まる――
空港ではかなり時間に余裕がある。
――じゃないと、ちょっと不安だったから。
目覚めは最悪――
(……どんだけ呪われてるんだ――)
別にわたしは神様がいるとか、いないとか……信じてないけど、さすがに神様を恨んだ。
「……なんで今日なのよ」
熱は明らかに上がっている。……頭も痛い。お腹が痛くないのが幸い。……これで幸いっていうの?
朝7時。ギリギリまで布団で汗をかく。
わたしが出掛けた後、着替えをお父さんに見られちゃうけど……それはもう仕方ない。
(あー……昨日、色々準備しててよかったー)
カーテンの向こう側は、とっても眩しい。旅行には最高の天気になってるっぽい。
でも、わたしの体と心は重い。ここ最近はずっとこんな感じだったけど……「なんで今日なの」と思う。
熊本は暑い。いや、熱い。
…もちろん、横浜だって暑い。でも熊本は確か……湿度が凄かった気がする。
春から横浜に引越しをしてきて、まだ半年くらいなのに……「あの」暑さを、どこか忘れてしまっている。本来ならTシャツだけでいいはずだけど、カーディガンを持っていく必要があることを、恨めしく思った。
お父さんはとっくに会社に行っている。
家を出る直前に、わたしはやることが2つあった。
「行ってくるよ」
わたしは笑顔でこっちを見ている茜の前に座わる。
「ねえ。あんた、今どっちにいるの?」
「まさか、あの家にはいないよね?」
「……まぁ……とりあえず、行ってくるよ」
「ちょっとキツいけどさ」
「頑張ってくる」
「……なにかあったら……わたしのこと……助けてよ?」
「ねえ」
「お願い」
手を合わせて、わたしは鍵を掛けた。
そしてもう一つ。
「行ってきます!」
「準備色々、ありがとう! 大好きだよー」
お父さんにラインを入れた。
(よしっ……行くか)
わたしはキャリーケースを引きずりながら、磯子駅へと向かった。
「美咲ちゃん、お早う」
楓くんの声を聞いて、ほんとに旅がスタートするんだ……と、改めて感じる。
「……おはよ!」
「大丈夫? 体調は」
「もう……そればっかじゃん。平気だよ」
「じゃ、行こうか」
「……うん」
熊本へ行くルートは、新幹線ではなくて飛行機を選んだ。新幹線は窓からの景色を見ることができるから……「エモいな」って思っていたけど、結局熊本までかかる時間を優先させた結果、飛行機になった。
(心配し過ぎなんだよ、お父さん……)
横浜駅まで、JRで向かう。
わたしはあまり朝から学校へ行けた試しがない。体調が悪いことが多かったから、遅刻して行ったり、お昼から行くこともあった。
「……この人の数、絶対にヤバいよねぇ……」
改札口に次々と吸い込まれていく、沢山の人。
もうこの段階でキツい。目まいがする。
「いや、大丈夫」
さらりと楓くんがいってのけた。
「……なんで? めっちゃいるよ?」
「始発があるから」
そう。磯子駅は始発電車が出る駅でもある。
学校へ行く時は、あまり有難みを感じることはなかったけど……。
「……そうかぁ、始発があるのか……」
「うん。座るのは難しいかもだけど、これならまだマシでしょ」
わたし達は、駅のホームで始発電車を待つ列に並んだ。
横浜駅。色々な路線に乗り換える、中継地点の駅でもある。
学校がある山手駅は、磯子駅からたった2駅で、しかも住宅街。……降りてしまえば、人はほとんどいない。
それに引き換え、朝の横浜駅はもの凄い。「一体、どこから沸いてきたのか」と思うほどの人。人の流れに上手に乗っていかないと、歩くことすらままならない……。
電車を降りて、改札口まで黙って進む。そのまま東口の方へと歩いていく。ここでもまた、人の流れに乗っていかないと、目的地まで辿り着けない……。
「……凄い人だよね……気持ち悪くなってくる」
「ね。山手駅で降りてる俺達には、異世界だよ。これ」
「これは……キツい」
「美咲ちゃん、大丈夫?」
「……うん。でも、集中してないと、目まいがするかも」
ちょっとだけ開けた場所に出ると、日差しが入り込んでくる。
「はぁ。……サラリーマンて、あんな大変なのかよ」
「ね……。しかも毎日でしょ」
「俺、無理だな」
「ははっ……わたしも」
「……どこに向かってんの?」
「バス乗り場だよ。ワイキャットっていうみたい」
「ワイキャット?」
「うん。高速バスの乗り場の名前なんだって」
「……へぇ」
地下の通路を歩き、正面に大きなデパートが見えた。
「あ、あれ右」
「右ね」
小さいエスカレーターを上ると、こじんまりとしたバス乗り場が姿を現した。
「……知らなかった。こんな場所、あるんだ」
「わたしも初めてきたよ」
「そうなの? でも熊本から来た時、飛行機じゃないの?」
「……あんま覚えてないんだ」
受付でチケットの買い方を聞いて、羽田空港までのチケットを買う。
「良いね。静かで」
空港までは電車で行くルートもあるらしかった。横浜駅で降りないで、東京の方まで行ってから途中で乗り換える。
「美咲は横浜駅からバスで行った方が良いだろうな」とお父さんがいっていた意味が、ようやく分かった。
「……電車で行ってたら、倒れてたね。途中で」
「俺も。熊本に行く前に力尽きてたと思う」
「お父さんの言うこと聞いて……良かったよ」
磯子駅からここまで、あまりの人の多さにずっと集中していた。電車内はパンパンで、今のわたしにとっては空気は最悪だった。少し気持ち悪い。
(……あー……)
ちょっと気が緩み、急に目まいがしてくる。
人の多さが凄かったのもあるだろうけど、たぶん熱もだいぶ出てる……。
「ちょっと待ってて」
わたしは荷物を置いて、トイレに行く。……薬を飲むために。
バス出発時間まで、まだ20分もある。
「飛行機、何時に出るやつなの?」
「……えっと」
今回、お父さんが色々と手配してくれた関係で、楓くんは細かい時間を全く把握していない。
「11時半、だね」
「空港まで、こっからどれくらいなの」
「……確か、30分掛からないくらい」
「そっか。じゃ、空港で結構待つね」
「そうだね。念のため余裕持っておこうと思って」
バスに乗り込み、一番後ろの席に座る。
「それでは発車します……シートベルトを……」
運転手さんのアナウンスが始まった。
……わたし達の旅が、本格的に始まる――
空港ではかなり時間に余裕がある。
――じゃないと、ちょっと不安だったから。



