神社ってね、感謝をするところなんだよ

「お待たせ! ごめんね」
わたしはできる限りの元気を装う。

「あっ、美咲ちゃん。……長かったね」
「いや、ちょっとね」

「……」
「もしかしてさ、1周してきた……?」
「あれ? バレた?」
「だって、行った方向と逆から帰ってきたから……」
「楓くん、賢いな」
「……考えれば分かるだろ」

ゆっくり歩いたのは、体調のこともあったけど……1番は呼吸が乱れないようにすること。

緊張するに決まってるんだから……せめて呼吸だけは、いつも通りにしておかないと……。

「歩きたかったんだ」
「うん。ちょとね」
「そういう時、あるよ。疲れたでしょ? 座ったら?」
「うん」

「……楓くん」
「何? 話せそう?」
「うん」
「ゆっくりで大丈夫だよ。ちゃんと聞いてるから」
「……ありがとう」
「……」
「なんて言えば……いいかな」
「……ん?」
「なんだろ……お願いっていうか……」
「お願い……?」
「ちょっとちがうなぁー……」

なんて言えばいいのか……分からない。
率直な気持ちをぶつけてみることにした。……受け止めて欲しい。

「一生のお願いがあります!!!!」

大きな声を出してしまった。
でないと……伝えられない。

「……一生のお願い?」
「……そう」

「あのね……わたしと一緒に……熊本に行って欲しいの……」
「えっ……? 熊本に? 一緒に?」
「何言ってんだこいつって思われるのは分かってるの。……でも……本気なの」
「旅行ってこと?」
「うーん……」
「一緒に引越そうってこと?」
「……いや、そうじゃない……」
「そうか。だから1周してきたんだね」
「うん。じゃないと……言えない」

「良いよ。一緒に行こう」
「え?」
「行こうよ。熊本。行ってみたかったんだ」
「もう――……優し過ぎるよ……」

神様……ありがとう……
わたしの一生のお願いを……聞いてくれて

「おいって……みんな見てるって……」
「あっ……」
思わず楓くんに抱きついていた。

だって……
断られたら、恥ずかしくて生きていけない。

「何日か行こうってことでしょ?」
「うん」
「どんなイメージなの?」
「もう一度……歩きたくて。住んでたとことか」
「……懐かしくなった?」
「なんだろ……そういう感じじゃないんだよね……上手くいえないんだけど……」

「でもさ、美咲ちゃん……辛いことも色々あったんでしょ? 大丈夫?」
「だから、行きたいの」
「……」

「あの時のこと……正直あんま覚えてないんだよね」
「……そうなんだ」
「うん……記憶があんまない。気付いたら、こっちでの生活が始まってた感じだから」
「そういうこと……」
「うん。だから……ちゃんと最後に、もう一度感じたい」
「……」
「楓くんと一緒なら……ちゃんと向き合えるような気がして」
「……うん」
「あとね」
「何?」
「楓くんにも、見て欲しいの」
「何を?」
「ん? わたしが……生活してた街」
「そうだね。見たいな。美咲ちゃんが……どんなどこで生まれ育ったのか」
「生まれたのは大分市だよ?」

わたし達は笑った。
これまでの緊張を、一気に解くように。

「でもさ、美咲ちゃんはお父さんに言ってあるの?」
わたしは首を横に振った。

「でも、ちゃんと家に帰ったら……真剣に話す」
「うん」
「お父さんにも、真剣な気持ち……聞いて欲しいし」

目に溜まった涙を拭って、わたし達は磯子に帰ることにした。

「神様……ありがとう」森林公園を出る時、振り返って、心の中で呟いた。