神社ってね、感謝をするところなんだよ

八幡神社を後にして、わたし達は根岸駅の方に歩き出していた。

「根岸駅の近くにさ、もう一つ神社があるんだけど……帰りに寄って良い?」と楓くんがいったから。

どうせ帰りは根岸駅から電車に乗るから、ちょうどよかった。

「なんて神社なの?」
「……ちょっと待って……名前は知らないんだよなー……」

「え、また八幡神社なんだ」
「ふぅん」

根岸駅の近くにある神社は「根岸八幡神社」という名前らしい。

「この辺、八幡神社って名前多くない?」
「え? でもまだ2つだよ」
「……十分多いと思うけど?」

さっきの神社から、根岸駅までは国道沿いに歩くだけ。

「わたし、根岸駅で降りたことないんだよね」
「何も無いよ?」
「なにそれ。失礼じゃない?」

お昼過ぎ。
気温が段々と上がってきて、もの凄く暑い。
羽織っていたカーディガンをさすがに脱いだ。

「いやでも、本当だよ。行けば分かる」
「……ふーん」
「駅前は、磯子より小さいよ」
「あー……言われてみれば。スーパーとかあんまないよね」

学校に行く時に、根岸駅を通って山手駅に到着する。電車の窓から見ていても、「団地しかないなぁ」という印象だった。

「もうちょっとで着くよ」
国道沿いに歩いてきた道。途中で左に曲がって住宅街の中に入っていく。

「……住宅街の中にあるんだ」
「地図見ると、結構こじんまりとしてるっぽい」
「楓くん、行ったことないの?」
「うん。初めてだね」
「……あ、ちょっと待ってて」

自動販売機が目に入り、わたしは水を買うことにした。

ゆっくりと近づいていく。
ココアはとっくになくなっていたから。
「もうちょっと早く、水買っておけばよかったな」と少し後悔した。

寒気はなくなっていたけど、今度は体の中がもの凄く熱い。

……日傘を忘れたことがうらめしかった。

根岸八幡神社は、思ったよりもコンパクト。
もっと仰々しい感じなのか……と思っていただけに、拍子抜けする。

「……意外と小さいんだね」
「ね。もっと大きいのかと思ってた」

真横には幼稚園が面していて「地域の神様」って感じの場所。

だいぶ疲れた。

「……美咲ちゃん、大丈夫……?」
心配かけたくないから……なるべくバレない様に振舞ってきたつもりだったけど。

「うん。大丈夫」
楓くんは優しい。
きっと「帰ろう」って言ってくれる。

唯一、良かったことは……神社がこじんまりとしていること。石段も少ない。わたしは手すりに軽く手を添えながら、階段を上る。

……しっかり持つと、なんだか心配されそうだったから。

「ねえ、楓くん」
「何?」
「あれ。覚えてる?」
「……あれ?」
「そう。あの『手をパンパン』ってするとこ」
「あー……何だっけな……」
「忘れちゃったんだ」
「えっと、本坪鈴か」
「おっ、覚えてくれてたんだ」

短い参道をゆっくりと歩いて、本坪鈴へ。境内は狭い。さっきの神社とちがって、あまり太陽を遮るものがないから……ちょっときつい。

「……ねえ」
「ん? 何?」
「『教える』っていって……教えてなかったね」
「……何を?」

「あのね」
「うん」
「神社ってね、お願いするところじゃないんだよ」

住宅街の一角に、鎮座する神社。
風があんまり吹いていなくて……とっても暑い。

わたしは手に持っていたペットボトルを軽く握りしめていた。