神社ってね、感謝をするところなんだよ

1月。
みんな、どの高校を受験するとか。受かったとか。落ちたとか。

休み時間は受験の話でもちきりになる。
冬のピンと張りつめた空気と同じように、どこか教室内にも緊張感が漂う。

しゃべることで、ストレスを発散してるんだろうなぁ……と羨ましくなるけど私にはしゃべる友達がいない。

今日も休み時間は本を読んで過ごす。

「……高校、受験するの…?」
「……私?……だよ……」
「えー……。じゃあ……ってこと?」
学校から帰る時、私は前を歩く2人の会話が聞こえないくらいの距離を保って歩く。

信号が赤になって、別々にならないかな……と密かに期待しながら。

1人で帰るのは、色々と気を遣う。

「ただいま」
「あっ、お姉ちゃん。お帰り」
「……あれ? 今日も学校行ってないの?」
「うん」
「……そっか」
中学1年生の妹の茜は、学校を最近休みがちになっている。3週間ほど前から、朝起きると「頭が痛い」と言うようになった。

「お父さんからライン来たよ」
「……なんて?」
「今日ちょっと遅くなるって」
「はぁい。分かった」
うちは離婚していて、お父さんと私と妹の3人で暮らしている。

私が小学2年生の頃、大分市から引越しをしてきた。熊本に引越してきてから、お父さんは忙しそうで、晩御飯は妹と2人で食べることも多かった。

「……ねぇ、お父さん」
「ん……? どうした?」
「茜、また学校休んでるよ」
「……頭痛いって言ってるから……仕方無いだろう」
「んー……でも休み過ぎじゃない?」
「分かってるけどね。もうちょっと様子見てあげたら」
お父さんの帰りは遅い。夜の10時を過ぎることも珍しくない。

本当はもっと色々と話したいこともあるけど、丸まった背中を見ていると
「またにするか……」といつも思う。

「……気にはなってるけどね」
お父さんが食べ終わった食器を台所に運びながら、ぽつりと言った。

熊本の1月は本当に寒い。
市内に住んでいるのに、水が出ないこともある。「配管が凍ってるんだろうなぁ」と引越ししてきた直後にお父さんが言っていた。

「茜―、今日は学校どうすんの? 一緒に行く?」
「うーん……熱っぽいから……休もうかなぁ」
「えっ? 熱? ちょっと……」
妹の額に触れると、焼けた石のように熱い。
「……ちょっと、あんた……熱あるじゃん」
「……うん。きつい」
「とりあえずさ、布団に入りなよ」
「……」
私はお父さんにすぐラインを送った。

お父さんはたまに仕事を抜けてきて、妹を病院に連れて行く。

「頭が痛い」と言って、学校を休むことが多かった妹だったけど、それ以来「熱っぽい」と言って休むことも増えていた。私は一人で、学校へと向かう。

私は中学1年生の時、やらかしていた。

入学直後、仲が良かった友達に嫌いな友達の名前をしゃべってしまったのだ。

悪気はなかった。

すぐに噂がクラス中を駆け巡り、私は孤立した。

全員からいじめを受けた、というわけではない。こういう状況になると、これまで仲が良かった友達もしゃべりかけて来なくなる。

関係ない自分にまで、被害が及んでしまうから。

居ても居なくても、どちらでも良い。そんな存在になっていった。

中学2年生になると、クラスが新しくなるため、多少はマシになったけれど

3年生になった時、1年生の時と同じメンバーになり私に休み時間話しかけてくれる子は、誰もいなくなった。

ずっと突っ伏して寝ているか、本を読むことでしか時間を潰すことができない。

こんな生活も、残り2ケ月程度で終わろうとしていた。

そんな時、妹の茜もいじめられていて、学校に行けていないことが分かった。

お父さんが学校の先生から呼び出された。
茜は私たちに、ずっと隠していたのだ。