神社ってね、感謝をするところなんだよ

ホットココアを手に、階段を下る。
狭くて急な階段。
こぼれないように、慎重に。

一人でこんなお店に来るなんて……熊本にいた時じゃ考えられない。少し大人になった気分になる。

春までは、学校と家をただ往復するだけの毎日だったから。

店内は狭い。
待ち合わせの時間まで、まだ残り30分。

窓側の席を選んで、腰を下ろした。
視界が開けて、圧迫感がちょっと減った気がする。

(……昨日は疲れた)

みんなの視線を浴びながら
緊張感いっぱいの中、演奏したわけじゃない。

私はただ、入口でお客さんたちに資料を配布しただけ。

……何もしてない。

ぼんやりと外を眺めていると、視界にココアから出る湯気が入り込んでくる。

(はぁー……)

両手でカップを持ち上げて、一口。

(……あったかい)

私には店内のエアコンはちょっと寒い。

「……美咲ちゃん?」
反射的に後ろを振り向くと、楓くんが立っていた。

「おはよう。美咲ちゃん」
「あっ……お、おはよう。早いね」
私は急いで隣の椅子に置いていたカバンに手を伸ばした。

「いや……ちょっと早く行こうと思って……」
表情を崩しながら、楓くんが私の隣に座った。

狭い店内。
椅子と椅子の距離も近い。

(……こんな近いんだ……)

私は急にドキドキしてきた。

「……実はわたしも」
「美咲ちゃんもかぁ」
笑いながら、楓くんはアイスコーヒーにガムシロップを入れている。

「まさか、同じこと考えてたなんて」
「ね。家にいたら、落ち着かなくて」
「そうそう。分かる」

ちょっと間が空いた。

「あ、昨日はお疲れさま」
思い出したかのように楓くんが言った。

「いや……わたし、何もしてないよ」
「ちゃんと仕事してたじゃん。演奏はして無かったけどさ」
「……」
「あまり学校行けてなかったからでしょ?」
「うん。練習全然してなかったし」
「学校行けて無いから……それは仕方無いと思うけど……」
「ほんとはちゃんと練習して、聴いて欲しかったんだけどね」
「……それはまたいずれだね」
「うん。恵ちゃんと勇太くんも来てるって思ってなかったから……『ありがとう』って言っておいて」
「うん。めっちゃテンション上がってたよ。あの2人」
「あはははっ! そうなんだ」
「そう。ほら、普段美咲ちゃん、クラスで寝てることが多いからさ」
「まぁね……」
「『また今度行こう』って言ってた」
「ほんと? あっ……あと、お花ありがとう」
「花屋に選んでもらっただけだから……」
少し照れたように、楓くんはアイスコーヒーに口をつける。

「そういえばさ」
「……何?」
「体調、今日は大丈夫なの?」
「うん。今日は大丈夫。ありがと」
「それなら良いけどね」
「今日、どこに連れていってくれるの?」

ちょっと間を空けて、楓くんは言った
「散歩だよ」

「そろそろ行こうか」
「うん」
私たちは食器を返却口に置き、お店を後にした。

店内は狭い。
2人横に並んで階段を上ることは
できなかった。