神社ってね、感謝をするところなんだよ

JR横浜駅からだいたい15分くらい。
山手駅から延びているこの坂は、わたしには正直キツくてまだ慣れない。

とっても静かな住宅街。4つ先の駅が横浜駅だとは思えない。

「……おはよう」
「あっ、美咲ちゃん。おはよ!」
吹奏楽部の朝も、坂と同じくらいキツイ。

延々と伸びているこの坂を登っていかないと、学校には着かない。

まだ入学して間もない4月だからいいけど……夏になったらどうなるんだろう。

わたし――結城美咲はこの春から横浜市に引越してきたばかりで、高校生活に慣れるどころか、毎日の生活すら……いまだに落ち着いていない。

「美咲ちゃん、もうこっちの生活、慣れた?」
「うーん……学校と部活でギリギリかも」
「あぁ……そっか。朝練も早いしね」
「うん。全然慣れないかなぁ……」
「あははっ! そうだよねー。……うちの部活、強いから仕方ないけどね」
わたしが春から通っている栄ケ丘高校は県立の学校だけど、吹奏楽はかなり強い。

毎年必ず県の代表になって、全国大会に出場している。

……と、入学した後に知った。

「でもさ、結構学校休んでるけど……どっか悪いの?」
4月に入学して、学校を休むことが多かった。

「あっ……うん。まだ慣れてないからかも」
「今日は? 平気?」
「うん。ありがと。今のとこ大丈夫かな」
「そっか。朝練も毎日だしね……。わたしも限界」
平日は朝の7時15分から。
土日は朝9時から夕方5時まで。
週7回続き、休みは基本無い。

なかなかブラックだなぁ……と最初は思ったけど、行ける時に行こうと思うようになっていた。

無理なら辞めればいいし……。

「美咲ちゃんて、九州だったけ?」
「……うん。そう。熊本」
坂を10分ほどかけて登ると、平坦な道がずっと学校まで続く。

「……熊本かぁ。行ったこと無いなぁ……」
「だよね、普通あんま行かないよね。何にも無いけどね」
「えー。そうなの? 何が有名だっけ」
「……有名なもの? うーん……。阿蘇山とか? くらいかなぁ……」
「あ、カルデラだったっけ?」
「そうそう。……名前だけしか知らないけど」
「高校受験の時、塾でやったなぁー」
「……わたし、地元あんま好きじゃないんだよね」
「えっ? 熊本出身なのに?」
「……うん」

わたしは2月まで熊本で生活をしていた。そのままいけば高校も普通に熊本で進学する予定だったけど、家の都合でこっちに来た。

「……あっ、ギリギリじゃん! 美咲ちゃん、急ご!」
「えっ? ……ほんとだ! やばっ……」
わたし達は昇降口に向かって、桜並木の下を全速力で走った。

栄ケ丘高校は、春になると桜が満開になる。

――これも、入学した後に初めて知った。