失われるとわかっていても、君の隣を手放したくない

「先生、合同創作ダンスを体育祭と文化祭の中間的なものに位置付けることは可能ですか? 中間的なものっていうか、融合。つまり、体育祭の一部を切り出して、文化祭のクラス発表と合体させる」

 S女子に助け舟をだしたのは阿部だった。
 一気にA校生がざわつく。
 こんな提案をしてくるなんて。
「そんなことできないでしょう」「いや、ありかもしれない。クラスで演劇するところもあるよな?」「ダンスっていう内容としては問題ないけど、S女子と合同っていったら日程はどうするんだよ」みんなの意見を頷きながら聞く。
 なかなかいい視点だとは思ったが、残念だったな阿部。
 巻き返すぞ。

「合同創作ダンスを体育祭から切り離して文化祭のクラス発表としてするのなら、時間数の確保はできても、どこで、いつ、といった問題は残ります。S女子側でも検討事項は多いと思いますが」

 体育祭の一部を合同して行うことさえ、たいへんな調整が発生するはずだ。
 文化祭のほうにも手が入るなんて、さらなる調整を学校側が受け入れてくれるだろうか?
 少なくとも、すぐに結論はでないだろう。

 しばらくの沈黙のあと、雑談といった雰囲気で阿部がしゃべりだした。

「S女子の文化祭って、高2はなにするの? 模擬店だっけ」
「うん、そう。模擬店がメインで、あとは有志で集まってやるよ」
「へぇ、楽しそうだな」

 他のA校生も「俺も模擬店とか憧れてたな」「迷路とかクイズとか、他校みたいに面白い企画やりたかったな~」と呟いている。
 篤人が、みんなの意見を板書していく。書き終わったあと、大きく『最後の文化祭』と書いた。
 特に気に留めず、流していたところで、

「あの! 最後の文化祭だから、いっそ、好きなことしちゃうってどうですか!」

 舞似の女が、とんでもないことを言い出した。
 「は?」と、間抜けな声を出してしまう。
 周りのみんなもポカンとしているが、彼女は続けた。
 自分の言葉を自分で確かめるように。

「今まで大切にしてきた文化祭でのクラス発表っていう伝統、素敵だと思います。だけど、もし、少しでも他のことをやりたかったって思いがあるのなら、思い切ってやってみるって、やろうと動いてみるってのも大事かなって……。A校のこと、よく知らないわたしが言うことじゃないってことは、よくわかってるんですけど……」

 彼女を応援するような、軽快にはしるチョークの音が続く。

「わたし、せっかく高校受験がない中高一貫校に入学したのに、今までやりたいことってなくて……。部活にも入ってないし、頑張ったことってなにかあったのかなって思ってて。恥ずかしいことなんですけど……。
 でもA校との合同創作ダンスの話を聞いたとき、やってみたい! 難しそうだけど叶えてみたいって、すごく思ったんです。系列校じゃない高校同士の合同行事って、全国的に珍しいですよね?
 いろいろ大変なことはあると思うけど、みんなで頑張って、いい思い出を作れたらって思います」

 頬を上気させながら一生懸命言葉を紡ぐ。彼女の想いが真っ直ぐに届く。
 彼女の名前はなんだった?
 水野——……。

 胸の奥で渦巻いていたものを、水野さんの言葉がさらっていく。
 代わりに置かれた『今』という時間を眺める。
 『今』は、未来のためだけに存在しているただの通過点じゃない。二度と巡らない、かけがえのないとき……。
 『今』を大切にできなければ、振り返ったとき残っているものは何もない……?