失われるとわかっていても、君の隣を手放したくない

 目の前に並ぶ、クリスマス仕様の缶や箱。唯一、装飾のない茶色い袋のなかを覗くと、サンタクロースやトナカイの形をした個包装のクッキーが詰め込まれていた。

「ロンドンのお土産♡ かわいいでしょ?」

 こんなにたくさん、しかもクリスマスムードの一掃されたこの年明けに……という言葉を飲み込む。

「ロンドンのクリスマス、とっても良かったー!! 写真見る?」

 流れる速さでスマホを操作して、ロンドンの写真や動画をスクロールしていく。なんだかテンション高めだな、と水野さんの横顔を盗み見た。
 胸の辺りがむずむずしてくるのを我慢できず、彼女の頬に手を伸ばす。きゅっと両頬を掴み、こちらを向かせる。
 一瞬きょとんとしていたが、やがて眉根を寄せて振り払おうと首を横に振る。手を離しても、柔らかく温かい頬の感触が指先に残っていた。

「なによ」
「べつにーなんとなく。終業式サボってロンドンだなんて、やっぱズルいなぁって」

 赤い缶を手に取る。ヒイラギのような緑の葉とオレンジやレモンの絵に縁取られて"CHRISTMAS TEA"と書いてある。
 ふと、水野さんが真剣な顔で俺の方に向き直った。 

「わたし、やっぱり桐島くんのことが好き。ロンドンで素敵な景色をたくさん見たけど、もしここに桐島くんがいたらどうかな、どんな風に笑うのかなって、ずっと想像してた。ばかだよね、さんざん振り回されたのに、きらいになれない。確実な未来なんてわからないから、また傷つくかもしれない。
 だけど、今のこの気持ちを大切にしたいの。まずは自分のことを頑張らなきゃ。大学で桐島くんと会えたら、この気持ちを伝えたい。それまで待つよ」

 覚悟していたことだけど、やっぱり本人の口から聞くのはしんどかった。目を背けたいのを必死でこらえて、篤人でいっぱいになった瞳を見据える。

「和田くんこそ、いろんな想いを抱えてるのに、背中を押してくれてありがとう。和田くんは最高の友達だよ! 大好き!」



――……



 心が、揺れる。痛みを伴いながら。
 大好きだと、その意味は俺が欲しいものじゃない。
 だけど。
 いちばんになれなくても、大切な人のひとりになれたのなら――

「あ、ごめん。なに言ってるんだろ、わたし……」

 慌てる水野さんに笑いが漏れる。気づかれないよう素早く目元を拭った。

「……水野さんは俺のことが、すーきー」
「ちょっと! からかわないでよ!」
「俺のことが好きだなんて言っていいの? 篤人に言っちゃうよ?」
「だから、そういう意味じゃ〜」

 これで、いい。彼女が篤人のものになるまで、俺は君の隣を味わい尽くそう。

「水野さん、ありがとう。篤人と、うまくいくといいな」

 一瞬止まってから、瞳を潤ませてふわっと笑う。
 この笑顔が、たまらなく好きだ。

 外に佇む木は冬支度を済ませたところだし、これからが寒さの本番で春はまだ遠い。
 
 彼らに春が来るまで、冬の(とばり)よ、閉じたままで。