失われるとわかっていても、君の隣を手放したくない


 今、合同創作ダンスをする意味? 
 なんだそれ。
 みんなが次の言葉を待っているが続かない。ただの独り言か?
 
 ふと、静寂を破るようなチョークの音が響いた。

 〈合同創作ダンスについて〉
反対意見
・同時期に行う文化祭クラス発表との両立ができない

 
 篤人が、俺の言った反対意見を板書し始めた。全て書き終えると、反対意見と書いた文字の右隣、同じ高さにチョークを置いた。
 なにかメッセージを含んでいるような動作。
 賛成意見も考えてみて、ということか……? どうしてそんなこと……。

「賛成意見……あ、C組の水野です。あの……わたしたちが今、合同創作ダンスをすることで得られるものについて、考えてみませんか?」

 彼女は篤人の示したものをきちんと受け取ったようだ。
 みんなの表情が変わる。

「たしかに……俺らにおりてくる前に、両校の先生でも協議したんだろう。メリットがなければこんな話にはならなかっただろうし……」

 阿部の呟きに勢いづいたのか、舞似の女の横に座る派手な女が挙手をする。

「B組の橋本です。ただ単に両校の交流が目的なら、和田くんの言ったとおり卒業ダンスパーティーの復活でもよかったはず。合同創作ダンスのほうが、大変だけど学びは多いと思います」
「学びって、例えば?」

 相手に考える間を与えないよう切り返しは早く、が鉄則だ。
 さて、どう返すか?
 たじろぐ派手な女に代わり、舞似のほうが口を開く。

「合同ダンスだと調整事項が多い、ということについてですが、考え方を変えれば、調整する力がつきます。また、A校と調整するためには、S女子内で意見をまとめる必要もでてくる。つまり、クラスが団結するいい機会となります」

 相槌をうつように板書するチョークの音が響く。鬱陶しいほどに。

「運動能力に差があるのに、なぜ合同ダンスということについては?」 

 派手な女が身を乗り出す。

「リレーで競うわけじゃないんだし、ダンスならかえってアクセントになるんじゃないの? 体のつくりは違うわけだし、同じ踊りでも見る人に違った印象を与えられると思う。つまりは表現に奥行きがでる!……熱くなって、すみません」

 派手な女が笑いを誘い、「たしかに」と声が上がる。反対意見を出したS女子の子も、なるほど、と頷いている。
 雰囲気が和んだところだが、ここで流れを変えてやる。
 大きく咳払いをした。

「学びが多い点については、よくわかりました。けれど、文化祭のクラス発表と両立できない点については? A校の文化祭は、各学年クラス発表に重きを置いています。高校3年生が参加しない文化祭は、僕たちが全校生徒を引っ張っていかなければならない立場です。
 最高学年として『これぞA校』と思われるような素晴らしいクラス発表をしなければならない。そのための準備は計り知れない」

「文化祭のクラス発表って、毎年OBも楽しみにしてる伝統だよな」「毎年かなり大変だし揉めるけど……」A校の生徒が口々に言う。
 A校の伝統に関わることだ。S女子が軽視することは許されない。
 どうだ? もう何も言えないだろ?
 案の定、舞似の女は悔しそうにうつむき、反論する気はなさそうだった。