失われるとわかっていても、君の隣を手放したくない

「どういう風に好きでいるかは決めていい。伝えたいなら言えばいい。ただ見ていたいならそれでもいい。要は、自分らしく恋愛できればそれでいいじゃん!」

――自分……らしく

「和田は頭がいいからさ、周りの状況が見えちゃって我慢することも多いだろ。正直、F組の仕事を全部請け負おうとしたときとか、みんなを巻き込むことをあきらめんなよって思ったけどさ。愚痴も言わずに淡々と仕事するってやり方が響いて、結果的にクラスがひとつになったじゃん。だからさ、なんていうか……」

 伝えてくれようとしていることを汲み取ろうとしても、藤澤自身が掴めていないため、一緒に迷子になる。「なんて言ったらいいのか……」腕組みしながら唸っている。
 突然、振り切るように首を振ったかと思うと、強く両腕を掴まれた。

「和田は和田でいい! 周りがなんと言っても、おまえが悩んで出した答えなら、それが正解だよ。おまえの選択は間違ってない!」

――おまえの選択は間違ってない
 胸の内で繰り返す。込み上げてくるものを抑えきれず、胸がくるしくなる。
 そうだ、俺は……。
 俺が手放したくないもの、それは笑う彼女の隣。いちばんになれなくても、いつか失われるとしても、それがあればいい。気持ちを伝えたことで無くなるのはいやだ。
 情けない、共感できないと思うやつもいるだろう。実際、それが気になっていたのはたしかで、だから苦しかった。でも、他人にどう思われようが関係ない。
 自分で納得して、この道を選ぶんだ。
 つかえていたものが落ちていく。
 ただ……。

 壁一面に広がるフライヤーに視線を移す。そのなかの一枚に吸い寄せられた。湖上に佇む城かと思ったが、夜闇に浮かぶ白い文字盤で、これはビックベンだとわかった。
 目を凝らすと、ビックベンを背景に、一組の男女が中腰の状態で顔を見合わせている。ふたりの間にはアンティークの鍵が落ちていた。恋の始まりを予感させる絵だ。
 水野さんと篤人の姿に重なる。
  
「……なぁ、藤澤。失恋に効く映画、教えてよ」

 彼らの恋物語のなかで、俺は無くてはならない脇役だったと信じたい。
 当て馬でいい。俺しかできないことがあったのならば。

 胸の痛みを堪えながら笑おうとしたから、泣き笑いみたいな表情になってしまった。藤澤の動きが一瞬止まり、目を伏せた。何度か肩を揺らしながら深く呼吸したあと、眉をハの字に下げて笑った。同じような表情だなと、また、お互いに笑った。

 それから、パソコンで藤澤おすすめの失恋映画の予告を観た。彼の選んでくれたものは、たしかに主人公の恋は叶わないものの、明るい未来を予感させるものばかりだった。