失われるとわかっていても、君の隣を手放したくない

「和田くん、どうしたの。急用って」
 
 水野さんが俺の隣に腰を下ろした。
 文化祭の翌日、水野さんを公園に呼び出した。だいぶ元気になったと思うが、力なく笑うその横顔に切なさが募る。
 俺の口から直接言いたかった。篤人と舞が会ったことについて。

「文化祭で……篤人と舞が会ったよ。ヨリを戻したかまでは知らないんだけど……」
「ふぅん、そっか」

 気にしていない風に返されて拍子抜けした。「もしかして知ってた?」と訊くと、「まさか」と首を横に振る。

「桐島くんね、ボーリングの日にわたしとマイさんを間違えたの。和田くんとの電話が終わって戻ったら、腕を掴まれて『どこに行ってたの』って。わたしの知らない桐島くんの顔だった。で、そのあと、はっきりと言われたの。『ごめん、間違えた』って。これ、わたしとマイさんを間違えたってことだよね」

 そんなことが――……。何も返せないでいると、ふっと笑う。

「あっちもさすがに気まずいのかもね。避けられたりもして、傷ついた。今は会う機会ないし、桐島くんのことはもういいの。あきらめる。わたしのことより、和田くんこそ大丈夫?」
「俺?」
「うん。桐島くんとマイさんがつき合ったら……つらいよね……」

 自分の胸に問う。ふたりがヨリを戻すことは耐えられない。
 けれど、もっとちがう何かが引っかかっている。

「話があったら聞くよ。いつでも連絡してね。じゃあ、わたしはもう行くね」
「あ……うん、また……」

 遠ざかる背中を見つめる。
 ふいに、ひらひらと舞い落ちる紅葉が視界を遮った。気づけば、赤や黄色に染まった葉が散り始めていた。乾いた土に次から次へと降り積もっていく。
 水野さんの背中が小さくなり、やがて見えなくなった。

 行かないでよ――
 そばにいてほしい。
 痛いほど切ない心の叫びを、はっきりと聞き取る。

 篤人と舞がヨリを戻し、水野さんが泣くのはいやだった。だからといって、篤人が水野さんに向いている気持ちを自覚し、ふたりがつき合うことになっても、心から祝福できるか自信がない。

 俺のほうを向いてほしい。
 俺だけを見てほしい。

 解放なんてしたくなかった。どんな理由でも一緒にいられればよかったから。
 いつからこんな気持ちになった? もしかしたら、ずいぶんと前から特別に想っていたのかもしれない。
 篤人のことは友達として独占したかっただけで、恋愛として好きなのは水野さんってこと?
 俺は両性愛者(バイセクシャル)
 わからない……。

 ただ……これだけは、はっきりとわかる。
 彼女に染まっていた心を自覚しても、やっぱり俺は俺のままで、気持ちを伝える道を選べない。
 彼女は、俺が今でも篤人のことを好きだと思っている。だから、意識も警戒もせずに一緒にいてくれるのに。
 俺が想いを伝えてしまったら――

 頭を抱えるようにしてうずくまる。
 足元で、乾いた落ち葉の砕ける音がした。