失われるとわかっていても、君の隣を手放したくない

「舞!」

 振り返った舞は、どことなく水野さんには似ているけれど、やはり全くの別人だと感じる。
 水野さんは、こんな風に笑わない。口の端を上げて、人を見下すような態度で笑う、こんなやつと似てると思っていたなんて――……。

「一臣。久しぶり」

 俺の顔色の変化を楽しむように、じわじわと近寄ってくる。

「こわいかお〜。久しぶりに会えたのに。やたらイケメンに育ってない?」
「篤人に会いに来たのか?」
「そう。どこにいる?」

 当たり前のように訊く舞に、怒りが爆発する。

「ふざけんな。おまえら、もう関係ないんだろ!?」
「あんたに言われたくない。わたしが誰に会いに来ようがいいでしょ」
「うるせーな。じゃあ自分で探せよ!」
「うるせーって何よ! そういう態度が気に入らないのよ、昔から!」

 喧噪を上回る大声とともに掴みかかられる。周りの視線が一斉に注がれる。ここでケンカをして先生に見つかりでもしたら文化祭を台無しにしてしまう。悔しいけど、これ以上はまずい。そう思い舞に向き直ると、悔しそうにうつむいた。

「……篤人なら、わたしがどこに行っても会いに来てくれると思ったのに」

 途端にしおらしくなる。もしかしたらこのギャップが、篤人を捕らえて離さなかったものなのかもしれない。
 昔から、わざと相手を振り回したり突き放したりする舞。それでも自分についてきてくれるか、試すことでしか愛情を確認できない。育ち方に問題があるのだろうけど、詳しいことは知らない。知りたくもないし、同情もしない。

「もういいや。帰る」

 つまらなそうな顔をして俺の横を通り過ぎる。早く帰れと強く思う。篤人と会ってしまい、ふたりが繋がることだけは避けたい――

「和田ちゃん!」

 その声を捕らえてしまった。篤人の声を。上履きのまま、こちらめがけて走ってくる。
 血の気が引いていく。舞がいたことに気づいてる……?

「気分悪い? 大丈夫? 一体どうしたんだよ。なんで水野と――」
「水野さん?」
「ほら、たった今。けんかしてたろ、水野と」

 水野さんだと疑っていない表情で言う。

「あれは、舞だ」

 そう言った途端、目を見開き、きょろきょろと辺りを見まわす。この目を久しぶりに見た。盲目的に求めるときの、すがるような強い視線。意識はすべて舞に向かい、抜け殻だけがここにある感じ。昔から、これを見るのが耐えられなかった。
 舞を探そうと、きびすを返した篤人がふいに振り向いた。

「……いま、なにか言った?」

 ぎくり、という表情だった。何も言っていない俺は、ただ首を横に振る。
 そのとき。

「久しぶり」

 背後から舞の声がした。視線を移した篤人の表情が固まった。
 それはどう見ても、会いたい人に会ったときの表情じゃなかった。