俺は、ものすごい勢いでふたりのこだわりをさばいていった。どちらかを立てるでもなく、俺の意見も交えながら最終調整をしていく。
実質、もう完成させなければならない時期のため細かい修正は今日で最後だということで、結局打ち合わせは1時間もかかってしまった。
完成の余韻に浸る間もなく、終わった瞬間、駆け出すと、足が激しく机に当たった。積まれていた紙が散らばる。拾おうとして屈みこめば、今度は腕が棚に当たり、ディスクケースが落ちてきた。
「おいおいおい、珍しく冷静さを欠いてるな」
「わりぃ。ちょっと急いでて」
「細かい作業はやっておくから。行っていいよ」
ありがとう、と背中で言い走り出す。
水野さんのことが心配だ。すでに待ち合わせの時刻を過ぎている。
徐々に迫る暗闇に焦りながら改札を抜けた。
駅に着いたときにはすでに日は沈み、暗い世界を街灯と車のヘッドライトが照らしていた。公園へと走る。息を切らせながら目を凝らす。遠くのベンチに座るセーラー服を見つけた。
水野さんだ。近くに街灯のない暗いベンチに座っているので、濃紺のセーラー服は闇に溶け、顔と足だけがぼんやりと浮かんでみえる。
「水野さん!」
呼びかけながら走り寄ると、やけにゆっくりとした動作でこちらを向く。
「遅れてごめん。動画編集の打ち合わせをパスできなくて、連絡しようと思ったんだけどスマホを家に忘れて……。ずっと待ってた?」
「うん……でも、そんなに時間経ってた?」
「もう18時過ぎだ。こんなに暗くなってる」
「18時過ぎ……気がつかなかった」
気がつかなかった、という言葉に違和感を覚える。
「……とりあえず、ここ暗いよ。こんなところにひとりで待ってちゃだめだ。体も冷えてない? どっか入るか」
「ああ……うん」
よろよろと立ち上がる。まるで頭が働いていない、という返事だ。
大丈夫なのか……? 目も虚ろでふらふらとしているし、体調が悪いとか……。
明るい街灯の下で立ち止まり、後ろをついてくる水野さんを振り返る。
「え……?」
いつもと印象がちがうのは、メイクをしていないからだけではない。目の下のクマがひどい。くっきりとした黒いものが張り付いているようだ。一睡もできなかったという顔。
「寝てないのか?」
よくわからない、といった顔をされる。この状態で学校に行ったのか?
ほんとうに何があったんだよ、昨日——
「やっぱり、ここで話そう」
街灯の下のベンチに水野さんを座らせる。鞄の中からカーディガンを出して彼女の肩にかける。
隣に座り、弾んだ息を整える。話そうとは言ったものの、そもそも話ができる状態か? かといって、すべて吐き出させないと心配だ。
予想では、篤人から「舞のことが好きだ」と言われたんだろう。彼女が気持ちを伝えたのかはわからないけれど……。
考えを巡らせていたところで、ふいに、腕になにかが寄りかかる気配があった。
「え……?」
見ると、水野さんが目を閉じて寄りかかっていた。かすかに肩が上下している。眠ってしまったようだ。
こんなタイミングで、と思いつつも、彼女が眠れたことに安心した。眉間に皺が寄り、どことなく辛そうな寝顔に心が痛む。そっと頬に触れてみた。
その頬は柔らかく、しっとりと冷たくて、指が吸い付くようだった。
頬に触れた流れで、唇に指を沿わせる。形のよい唇は乾いてしまっていた。何も塗っていない素の状態の唇。
——無意識だった。
それか、本能だった。
自然な流れに身を任せるように、自分の唇を近づける。彼女の吐息が唇に触れる。
そのまま、そっとキスをした。
実質、もう完成させなければならない時期のため細かい修正は今日で最後だということで、結局打ち合わせは1時間もかかってしまった。
完成の余韻に浸る間もなく、終わった瞬間、駆け出すと、足が激しく机に当たった。積まれていた紙が散らばる。拾おうとして屈みこめば、今度は腕が棚に当たり、ディスクケースが落ちてきた。
「おいおいおい、珍しく冷静さを欠いてるな」
「わりぃ。ちょっと急いでて」
「細かい作業はやっておくから。行っていいよ」
ありがとう、と背中で言い走り出す。
水野さんのことが心配だ。すでに待ち合わせの時刻を過ぎている。
徐々に迫る暗闇に焦りながら改札を抜けた。
駅に着いたときにはすでに日は沈み、暗い世界を街灯と車のヘッドライトが照らしていた。公園へと走る。息を切らせながら目を凝らす。遠くのベンチに座るセーラー服を見つけた。
水野さんだ。近くに街灯のない暗いベンチに座っているので、濃紺のセーラー服は闇に溶け、顔と足だけがぼんやりと浮かんでみえる。
「水野さん!」
呼びかけながら走り寄ると、やけにゆっくりとした動作でこちらを向く。
「遅れてごめん。動画編集の打ち合わせをパスできなくて、連絡しようと思ったんだけどスマホを家に忘れて……。ずっと待ってた?」
「うん……でも、そんなに時間経ってた?」
「もう18時過ぎだ。こんなに暗くなってる」
「18時過ぎ……気がつかなかった」
気がつかなかった、という言葉に違和感を覚える。
「……とりあえず、ここ暗いよ。こんなところにひとりで待ってちゃだめだ。体も冷えてない? どっか入るか」
「ああ……うん」
よろよろと立ち上がる。まるで頭が働いていない、という返事だ。
大丈夫なのか……? 目も虚ろでふらふらとしているし、体調が悪いとか……。
明るい街灯の下で立ち止まり、後ろをついてくる水野さんを振り返る。
「え……?」
いつもと印象がちがうのは、メイクをしていないからだけではない。目の下のクマがひどい。くっきりとした黒いものが張り付いているようだ。一睡もできなかったという顔。
「寝てないのか?」
よくわからない、といった顔をされる。この状態で学校に行ったのか?
ほんとうに何があったんだよ、昨日——
「やっぱり、ここで話そう」
街灯の下のベンチに水野さんを座らせる。鞄の中からカーディガンを出して彼女の肩にかける。
隣に座り、弾んだ息を整える。話そうとは言ったものの、そもそも話ができる状態か? かといって、すべて吐き出させないと心配だ。
予想では、篤人から「舞のことが好きだ」と言われたんだろう。彼女が気持ちを伝えたのかはわからないけれど……。
考えを巡らせていたところで、ふいに、腕になにかが寄りかかる気配があった。
「え……?」
見ると、水野さんが目を閉じて寄りかかっていた。かすかに肩が上下している。眠ってしまったようだ。
こんなタイミングで、と思いつつも、彼女が眠れたことに安心した。眉間に皺が寄り、どことなく辛そうな寝顔に心が痛む。そっと頬に触れてみた。
その頬は柔らかく、しっとりと冷たくて、指が吸い付くようだった。
頬に触れた流れで、唇に指を沿わせる。形のよい唇は乾いてしまっていた。何も塗っていない素の状態の唇。
——無意識だった。
それか、本能だった。
自然な流れに身を任せるように、自分の唇を近づける。彼女の吐息が唇に触れる。
そのまま、そっとキスをした。
