失われるとわかっていても、君の隣を手放したくない

 翌日、登校した足でC組へ向かった。扉からのぞくと、窓から外を眺めている篤人を見つけた。変わったところは見られないけど、話してみないとわからない。教室に入ろうとしたとき、うしろから肩を掴まれた。

「阿部か、おはよ」
「おはよ。何してんの?」
「篤人に用事」

 阿部がちらりと篤人のほうを見る。「今は、やめといて」と短く言われた。

「なんで」
「とりあえず、今はやめろ」

 ここまで強く言われては、立ち去るしかない。阿部がいないときにしよう、と帰ろうとしたとき、ふと思い立った。

「昨日、何時に終わった? ボーリング」
「昼には終わったよ。で、昼メシ食ってからちょっと話して、解散したのが14時ごろかな」

 14時か……。それから俺の自習が終わる20時まで、水野さんはどこで泣いて……。

「……和田、おまえ」
「ありがとう。じゃあな」

 阿部の言葉を遮り、きびすを返して歩き出す。
 篤人と何があったのかわからないが、俺にできることは、ただそばにいること。それしかできない。歯がゆい気持ちを抑え、会う約束をしている放課後を待った。

 
 授業終了のチャイムが鳴り、帰り支度を整えているところで酒井に呼ばれた。

「今日の打ち合わせなんだけど」
「え? あったっけ」
「動画の最終チェックだよ。今さらなんだけど、俺ちょっと気になるところあって」

 水野さんとは、昨日と同じ公園で17時に会う約束をしていた。がっつり打ち合わせをしている時間はない。けれど来週の文化祭に向け動画編集も大詰めだ。完成間近になるにつれ、酒井と藤澤のこだわりが炸裂し、衝突することも多くなった。俺が間に立たないとまとまらない。
 クラス代表は俺だ。大事な仕事を投げ出すわけにはいかない。申し訳ないけれど会う時間を遅らせてもらおう。
 水野さんに連絡して……とスマホを出そうとした。ところが、ない。ポケットの中も、鞄の中も、どこを探してもない。なんで……。
 思い出した。朝、妹が勝手に俺のスマホで動画を観ていたのだ(なぜかパスコードを知られている)。取り返して鞄にしまったのに、懲りずにまた出されていたようだ。急いでいたので、確認しないまま登校してしまった。
 よりにもよって、こんな大事なときに……。頭を抱えていると、早く行こうぜと急かされる。
 水野さんの連絡先を知っているやつは、篤人と阿部、菅野くらいか? 篤人には聞きたくないし、阿部に詮索されるのも面倒くさい。あとは菅野か?
 用事があるから先に行って、と言い放ち、菅野がいるB組へと走る。
 ところが。

「菅野? 今日休みだよ」

 マジかー!! 不幸は重なるもんだ……。
 時計を確認すると16時15分を過ぎている。今から行かないと間に合わない。だけど。
 ゆっくりと息を吐く。落ち着け。打ち合わせを30分で終わらせる。
 動画は完成していて、あとは酒井と藤澤のこだわりをどれだけ反映させるかだけ。ふたりのこだわりは好みの違いであり、価値観のぶつかり合いであり、つまりは正解がない。大切なのは、落としどころを見つけてうまく収めることだ。俺の美学に反しない限り、うまく調整するのみ!
 そうと決まれば、と部室に向かって走った。