失われるとわかっていても、君の隣を手放したくない

 小早川篤人と三浦さんが騎馬から降り、待機していた東軍が舞台に広がる。

 東軍の勝利のエンディングダンスが始まった。

 ゆったりとしたリズムに合わせて舞う。落ち着いた動きだけれど、隠しきれない勝利の喜びが滲み出ている。

 三成橋本が、家康阿部に歩み寄る。
 踊り終えた東軍の周りを西軍が囲む。

「東軍の勝利!!!」

 大声で叫んだあと、太鼓の音が鳴り響いた。


 エンドロールが流れる前のような、静かな空白があった。
 動けなかった。息をするのも忘れるくらいの感動が、体を縛り付けていた。
 
 次の瞬間、止まっていた時が一気に流れだしたかのように音が飛び込んでくる。 
 割れんばかりの拍手が会場を包んでいた。

 客席を眺める。
 息を呑む。
 スタンディングオベーション。


 両校の先生、生徒、演技の終わった他のクラスまでもが、総立ちで拍手を送ってくれている。
 もちろん俺も、これ以上にないくらいの拍手を送りたい。そんな気持ちを抑えて、ひとつになった会場をぐるりと撮影する。

 最高だったと、月並みな言葉しか思い浮かばないことが悔しい。
 だけど、どんな言葉さえ、今の気持ちを言い表すものにはなり得ない。

 退場を急かすように、太鼓が鳴り響いた。
 やり切った表情を撮りたいと、退場門に移動する。

 カメラを持っていないほうの手を上げ、退場するみんなとハイタッチする。水野さんの番になる。
 おつかれさま。頑張ったな。
 彼女の背の高さに合わせ、わずかに下げた手に、汗ばんでしっとりとした手のひらが重なった。


 ダンスの後は控室へと戻るのでなく、客席へと向かうことになっている。このあとは閉会式だろう。すこし疲れてしまったので、控え室で休もうかと思い立つ。

 控え室に向かう廊下を歩いていると、

「え、ちょっと、和田くん!」

 水野さんの声に呼び止められる。靴を半分だけ履いた状態で追いかけてきていた。

「ちょっと待って、どこにいくの」
「どこって控室。終わりだろ?」
「いや、終わりじゃなくってさ……」

 脱げかけの靴を履きながら、必死に引き止めようとする。

「控え室にカメラ置いてくる。それで、ちょっと休んでから行くよ」
「だから、控室で休んでる暇なんて——」
 
 そのとき、キィーンというハウリングの音が鳴り響いた。
 ごそごそという音のあと、しばらくして、息の上がった声が聞こえてくる。

『……すみません、A高校2年C組の桐島です』

 篤人……?

「ほら、行くよって」

 背中を押され、退場門付近まで戻ってきてしまった。
 見ると、遠くのマイク席に、衣装のままの篤人が立っていた。

『みなさま、僕たちの、S女子高校A高校合同創作ダンスの観戦ありがとうございました! ダンス部門は終わりなのですが……次のプログラムです! ご覧ください』

 なんだ……? すべて終わったはず……。観客席もざわついていた。
 再び、会場が暗くなる。

 歌が流れ、大型スクリーンに映し出されたのは、俺と藤澤をはじめとするF組G組クラス代表の写真だった。