失われるとわかっていても、君の隣を手放したくない

 ドンッ!!!
 
 大砲のほうな太鼓の音が響く。
 家康阿部が、小早川篤人に参戦するよう、急かすように太鼓を叩いた。

 待ってました、と不敵に笑いながら、藍色の騎馬が現れた。

 残っている西軍騎馬は5騎、内訳は男子4、女子1。司令塔である菅野も残っている。
 東軍騎馬数は小早川篤人を入れて男子2、女子1。東軍女子騎馬には三浦さんが乗っている。三浦さんは身のこなしが軽く、長くしなやかに伸びる腕でたくさんの兜を奪っていた。けれど、相手の騎馬数が多すぎる。

 さて、どうする。どんな作戦で、と西軍が集まって考えている間に、突然篤人の騎馬が走り出した。

 東軍騎馬は、それぞれが離れた場所にいた。援護が望めないところにいるのに、小早川篤人の騎馬が西軍の集団に襲いかかる。

 奇襲攻撃だ。

 篤人の騎馬は運動部で構成されている。なので安定感と勢いがちがう。とはいえ、援護なしで飛び込んでいくなんて——

 意表をつかれてたじろぐ西側騎馬の兜へと手を伸ばす。西軍の伸びてきた手をバネのようにかわし、1騎の兜を奪い去った。続く西軍騎馬と組み合う。

 東軍が勝つかもしれない——

 俺のように勝負の行く末を読んだやつは他にもいたようで、待機場所にいたA校東軍から「いけるかも」と声が聞こえてきた。

 司令塔の菅野が、西軍男子騎馬と女子騎馬に、小早川篤人でないほうの東軍騎馬のところへ行くように指示をする。2対1か、兜が取られるのも時間の問題だろう。

 小早川篤人と組み合っている西軍騎手は、兜を奪うでなく、両手をがっしりと捕まえることだけに集中している。そこに背後から菅野を乗せた騎馬が近づいてきた。東軍男子騎馬は追手から逃げるのに必死で援護どころではない。
 あと、援護できるのは——

「菅野、覚悟ー! メガネ気をつけてよー!」
「え、メガネ? うわっ」

 三浦さんを乗せた騎馬が叫びながら走ってくる。
 不意をつかれた菅野が掴んだのは、なんと兜ではなくメガネだった……!  
 三浦さんが軽やかに兜を奪い去る。そのまま小早川篤人と組み合っていた西軍の兜もさらった。

「おー!!!」

 待機場所にいる東軍と会場が沸く。西軍からは鋭い叫び声が聞こえた。

 一方、西軍男子騎馬と女子騎馬の挟み撃ちにより、東軍騎馬の兜が奪われた。西軍が一転、歓喜で沸く。

 残りの騎馬は両軍とも男子騎馬、女子騎馬の1騎ずつ。勝ち続きできた西軍騎馬は、司令塔菅野を失い明らかに動揺していた。

 この時点で東軍の勝利は確信した。待機場所にいた両軍の顔を見比べる。A校生のほとんどは勝敗の予想がついたようで、目の前の騎馬戦に夢中になっているS女子とテンションに大きな差があった。
 水野さんはどうか?と、さりげなく背後にまわってみた。ちょうど隣にいるA校生が解説しているところだった。

「『男子騎馬は女子騎馬の兜は取れない』ってルールがあるから。西軍男子騎馬のあいつと、桐ちゃんで組み合うでしょ。後ろから西軍女子騎馬が援護に入って桐ちゃんの兜を取ろうと背後にまわる、その西軍女子騎馬の背後にまわるのが朱莉さん。そうやって挟み撃ちしあって、桐ちゃんと西軍女子騎馬の兜が取られる。結果、残るのは朱莉さんと西軍男子騎馬だ。そうなると?」
「そっか、男子は女子の兜が取れないから、残った騎馬数は同じでも、女子騎馬の残った東軍勝利ってことか!」
「そうそう」

 男子騎馬と女子騎馬が1騎ずつ残った場合は、引き分けではなく女子騎馬が残ったほうが勝ちとするルールになっている。

「あれ、でもさ。先に朱莉が桐島くんの援護に入ろうと西軍男子騎馬の後ろに入っちゃったら?」

 隣で聞いていたS女子の子が口を挟んだ。
 解説していたA校生が、それはありえないよ、と笑う。

「桐ちゃんの騎馬は精鋭揃いだ。西軍もそれはわかってる。朱莉さんが援護に入ることはないよ」
「じゃあ、男子騎馬同士、女子騎馬同士で戦って、桐島くんが勝っても、朱莉が負けちゃったら? その場合は西軍が勝つんだよね?」
「そうだね。ただ西軍の主戦法は挟み撃ちだから、正々堂々と戦って朱莉さんに勝てるかなぁ?」

 西軍騎馬戦を指揮していた菅野は、挟み撃ちを多用することで西軍を勝利に導いていた。なので、みんな一騎打ちの勝負に慣れていない。対して東軍は、あくまで自分が勝ちにいくことを目的とした一騎打ちの練習を繰り返していた。しかも残っているのは篤人と三浦さんだ。一騎討ちで勝てる相手じゃない。

 三浦さんの騎馬は逃げもせず、かといって組みかかることなく立っている。西軍騎馬がおろおろしながらも作戦を練ろうと集まろうとしたときだ。

「正々堂々と勝負!!」

 小早川篤人が叫び、西軍男子騎馬に組みかかろうとする。不意をつかれた西軍男子騎馬は、体をかがめて守りに入ってしまった。そこを小早川篤人が攻める。兜へとしなやかのびる腕。

「とった!!!」 

 兜を奪ったのは小早川篤人だ。
 赤い兜を高く掲げる。

「東軍の勝利ー!!! 歴史は繰り返す!!」

 東軍が、会場が、割れんばかりの歓声に包まれた。