失われるとわかっていても、君の隣を手放したくない

 合同創作ダンス発表の日は、爽やかな秋晴れの日だった。両校の先生と高1の生徒を招き、大型の室内競技場を貸し切っての開催だ。
 前倒しのスケジュールを組んでいたものの、前日まで編集作業は続いた。当日も、早朝から機材の準備やリハーサルに忙しい。
 どの組も、俺たちの編集した動画上映後にダンスが始まる。つまり、トラブルで上映できないなどがあれば、演技と進行に影響する。F組G組総出で何度も確認し、トラブルがあったときの対処法まで共有しつくしたうえで本番を迎えた。

 F組が担当したのは、A組"集団行動"、B組C組"現代版関ヶ原の戦い"、D組E組"世界のダンスメドレー"だ。演技の順番はくじで決められ、B組C組はトリを飾ることとなり、最後まで気を抜けない。

 両校の校長挨拶のあと、演技が始まる。最初のプログラムは、H組I組"海外青春ミュージカル"だ。会場が暗くなり、藤澤たちG組の編集した舞台裏動画が始まる。

 真剣に議論する姿、
 完成していく衣装、
 最初はまったく揃わなかったダンス……

 時間にすれば5分もないものの、まるで短編映画のようだった。心に訴えかけてくる。感動で胸が詰まる。
 想いを込めて撮影、編集した動画が終了したところで演技が始まる。

 実はまだ、仕事は残っている。本番のダンスを撮影し、再編集して文化祭で上映するのだ。最初、藤澤から話が出たときは流していたのだが、F組のみんなに共有したら二つ返事で快諾された。

 H組I組が定位置につき、G組がカメラを構える。
 さぁ、合同創作ダンスの始まりだ。


 どのクラスのダンスも、別の学校の生徒と限られた時間で作ったものとは思えないほど、すばらしい出来だった。衣装の力もあったけれど、女子ならではの華やかさというか、動きの柔らかさには目を見張る。

 もうすぐB組C組の出番になる。ふと、水野さんのことが気になった。
 電話では、橋本さんと話してみると言っていたけれど、ちゃんとできただろうか。篤人とも、気まずい雰囲気を引きずっていないだろうか。もともとエンディングが定まらないことが不安だと言っていたし、本番前の緊張も重なって、気分が悪くなったりしていないだろうか。
 控室の撮影を兼ねて、様子を見に行くことにした。

 控室に入ると、着替えを済ませたみんなの前に、クラス代表とダンス指導役が立っていた。

「いよいよだな」
「わくわくするね! 西と東、どっちが勝つかな〜」
「楽しんでいこ!」
「怪我に気をつけて、精一杯、戦いましょう!」

 代表たちが鼓舞するなか、水野さんだけが隅のほうで震える手を握りしめている。

「大丈夫か?」

 横から声をかけると、大丈夫じゃない笑顔で頷かれる。「思いっきり眉毛がハの字。すげー情けない顔してるぞ」と指摘をしたのがいけなかった。もう我慢ができないと、顔は青ざめ足までも震えている。
 こんな状態で演技ができるのか?

「水野、水野。ちょっとこっち」

 水野さんが、手招きしている篤人のところへ揺れながら歩いていく。
 俺以外に、その様子を見ているやつがいた。阿部だ。阿部は軽く頷いたあと、みんなに会場へ向かうよう指示した。篤人に任せておけば問題ない、ということだろう。
 本番前に話をすることで、もやもやとしていた思いが解消されますように。
 そう願いながら、俺も控室を後にした。

 しばらくすると、藍色の長いハチマキを翻しながら篤人が走ってきた。その後を水野さんが追っている。ふたりともいい顔をしていた。カメラ越しでなく、心に刻みつけるように見つめる。
 思い悩んでいたことがなくなったというような、すっきりとした顔だった。
 そして、最後の舞台で最高の演技をしよう、そんな力の溢れた表情。

 頑張れ!! 見せつけてこい!!

 心の中でエールを送り、廊下を走り抜けた。