失われるとわかっていても、君の隣を手放したくない

 斜めから差し込む日の光が肌の上を滑っていく。
 いつまでも続くように思われた、うだるような夏の暑さも、刺すように照りつける太陽の光も、嘘みたいに勢いを失ってしまった。
 わずかに息を残し道端に転がる蝉を、そっと木に戻す。

 篤人とは、用事があって話すうちに、なんとなく元に戻っていた。
 水野さんと橋本さんは、しばらく気まずい雰囲気をひきずったままだったらしいが、見かねた阿部が動いたようで、表面上は元に戻ったようにみえた。
 合同創作ダンス発表は来月で、代表の俺たちはみんなを引っ張っていく立場だった。いつまでも気まずいままではいられない。
 心の底まで理解し合うことはできなくても、最高の形で終わらせるためにやらなくてはならないことは、十分にわかっていた。



 今日は県立体育館でB組C組の撮影だ。全員が衣装を着て踊る。
 体育館に入ると、すでにS女子の生徒が衣装を着て群がっていた。黒とえんじの羽織を腰の位置できゅっと絞り、裾からはお揃いの黒いハーフパンツがのぞいている。
 三成役の橋本さんの衣装がとにかく派手だった。膝丈ほどのえんじ色の羽織に金地の帯。襟元には豪華な刺繍が施されていた。もはや石田三成ではないものの、華やかな印象の橋本さんによく似合っていた。
 興奮して写真を撮ろうとする藤澤を「ただの変態にみえるから!」と厳しく制す。

 ぞろぞろとA校集団が入ってきた。
「こっちは、だいぶ男くさいなー」藤澤の嘆きに頷く。
 集団に続き、阿部が入ってきた。光沢のある膝丈の黒い羽織に、大きな袖もついている。金色の前立てと金地の帯が目立っていた。橋本さんのものと比べるとシンプルだけれど、阿部の雰囲気によく似合っている。持ち前の体格の良さが引き立てられていると思う。

 阿部の背後から、藍色の羽織姿の篤人が駆けてきた。長いハチマキが揺れている。
「桐島くんだけちがうー!」
 S女子が沸く。藍色の衣装は、爽やかな篤人によく似合っていた。

「大将より目立ちやがって。小早川がっ」

 阿部に小突かれ「痛てぇよ」と言いながらも楽しそうだ。
 ふいに視線を感じると、まだ制服姿の水野さんがいた。
「水野さんは着なくていいの?衣装」と聞くと、いま気がついたと走り去る。篤人とすれ違ったけれど、ふたりは挨拶さえ交わさなかった。水野さんが意図的に避けているのを感じる。

 篤人は水野さんのことが気になってるかもしれないと言ったから?
 彼女にとって、それは嬉しいことなんじゃないのか?
 舞のことが気になってるのか?

 小さな綻びがきっかけで、散り散りに裂けていきませんように。
 俺がすべての発端だけれど、そんなことを願ってしまっていた。