「……大丈夫?」
水野さんが手を離し、俺の顔を見上げる。
何も言わないでいると、手を伸ばし肩に触れてきた。
「和田くんっ、大丈夫?」
「あ……ごめん。なんか」
「具合わるい?」
とりあえず後ろのベンチに座らされる。
深い溜息のあと、ふっと諦めたように笑った。
「聞いた? おまえにはカンケーないって」
水野さんは何も言わなかった。返す言葉が見つからない、それを物語っている反応が逆にショックだった。
「泣いてないからな、俺は。そんな顔するな」
軽快に言ってのけ、彼女の頬をつまむ。「痛いよ」と手を叩かれたので「ぶさいくだな」と笑ってから手を離す。
重かった雰囲気が軽くなり、少しほっとした。
橋本さんと何が原因で揉めたのか? 「話ってなに——」と問う水野さんの言葉に被せる。
「水野さんこそ、橋本さんと揉めたんだって? 橋本さん、めちゃくちゃ怒ってたけど」
「知ってたの?」
「ここにいたら阿部と篤人が来て、しばらく話してたんだ。そしたら橋本さんがすごい顔で走ってきて『結菜とケンカした!』って俺を睨みつけるもんだから、阿部が察して連れて帰った。篤人も帰ろうとしてたんだけど、阿部が『気になるんなら桐島はここにいろ。結菜もここに来るんだろ。和田といろ』ってさ。要は3人で話せってことなんだな。全てわかってても我関せずの阿部が動くなんて、よほどヤバイ状況ってことだよ」
力なく笑う。話を変えたくて、橋本さんと何が原因で揉めたのか訊く。
「……わたしが、和田くんのことを好きだとしか思えないって」
「は?」
「最近、わたしたち一緒にいることが多いじゃない。さっきだって、朱莉にもいちゃついてるって言われちゃったし……。和田くんのことは友達だと思ってるって言っても信じてくれなくて。男と女だから、好きだとしか思えないって」
「『男と女だから』って……。まぁ、俺が水野さんのことが好きって公言してる以上、一緒にいる機会が多かったら両想いじゃんって思われるかぁ……。それに、男女の友情は存在しないって考え方の人間から見れば、そうなるのが自然だな」
男と女の友情は存在するか、しないのか、そういう議論はよく聞くけれど、そもそもの前提が双方が恋愛対象であることになっている。どうして決めつけるんだろう。同性が恋愛対象の場合、純粋な友情は異性間しかありえない場合だってある。
俺は女と友情を育んだことはなかったし、純粋な意味での男友達もいる。でも篤人のことが好きだ。ただ、篤人が男だから好きになったんじゃない。
切り替えるように大きく伸びをして、ぶらぶらと首を揺らした。ふーと大きく息を吐く。
「なんか水野さんといると楽なんだよな。俺が篤人のことが好きだって知っても、ひかずにいてくれる。それとは別に、単純に会話のリズムとかが合う。女は苦手なはずなのに、なんでかなぁ」
「わたしもそうだよ。最初こそ、つきまとわれるのが嫌だったけど。話していくうちに、和田くんの相槌のうちかたとか、わたしの意見をじっと聞いて否定しないところとか、落ち着く」
曖昧に笑って、込み上げる嬉しさをごまかす。彼女も俺と同じように思ってくれていたなんて。
それに、大切な友達である橋本さんに誤解されても、俺が彼女につきまとう理由は黙っていてくれる。
いい子じゃん。この子、いい子じゃん。
篤人も、彼女と舞は別人だということは十分にわかってると言っていた。
重ねて好きになることはない、ということか……。 だったら。
「……篤人は、もしかしたら水野さんのことが気になってるかもしれない」
「え?」
「舞とは別の人間として……もしかしたら、もう……」
ツクツクボウシの鳴き声にかき消される。
ここにいるよ、誰かきて、早くきて。
最後にジューと鳴き終わると、もうその声は聞こえなくなった。
もうすぐ2学期が始まる。
水野さんが手を離し、俺の顔を見上げる。
何も言わないでいると、手を伸ばし肩に触れてきた。
「和田くんっ、大丈夫?」
「あ……ごめん。なんか」
「具合わるい?」
とりあえず後ろのベンチに座らされる。
深い溜息のあと、ふっと諦めたように笑った。
「聞いた? おまえにはカンケーないって」
水野さんは何も言わなかった。返す言葉が見つからない、それを物語っている反応が逆にショックだった。
「泣いてないからな、俺は。そんな顔するな」
軽快に言ってのけ、彼女の頬をつまむ。「痛いよ」と手を叩かれたので「ぶさいくだな」と笑ってから手を離す。
重かった雰囲気が軽くなり、少しほっとした。
橋本さんと何が原因で揉めたのか? 「話ってなに——」と問う水野さんの言葉に被せる。
「水野さんこそ、橋本さんと揉めたんだって? 橋本さん、めちゃくちゃ怒ってたけど」
「知ってたの?」
「ここにいたら阿部と篤人が来て、しばらく話してたんだ。そしたら橋本さんがすごい顔で走ってきて『結菜とケンカした!』って俺を睨みつけるもんだから、阿部が察して連れて帰った。篤人も帰ろうとしてたんだけど、阿部が『気になるんなら桐島はここにいろ。結菜もここに来るんだろ。和田といろ』ってさ。要は3人で話せってことなんだな。全てわかってても我関せずの阿部が動くなんて、よほどヤバイ状況ってことだよ」
力なく笑う。話を変えたくて、橋本さんと何が原因で揉めたのか訊く。
「……わたしが、和田くんのことを好きだとしか思えないって」
「は?」
「最近、わたしたち一緒にいることが多いじゃない。さっきだって、朱莉にもいちゃついてるって言われちゃったし……。和田くんのことは友達だと思ってるって言っても信じてくれなくて。男と女だから、好きだとしか思えないって」
「『男と女だから』って……。まぁ、俺が水野さんのことが好きって公言してる以上、一緒にいる機会が多かったら両想いじゃんって思われるかぁ……。それに、男女の友情は存在しないって考え方の人間から見れば、そうなるのが自然だな」
男と女の友情は存在するか、しないのか、そういう議論はよく聞くけれど、そもそもの前提が双方が恋愛対象であることになっている。どうして決めつけるんだろう。同性が恋愛対象の場合、純粋な友情は異性間しかありえない場合だってある。
俺は女と友情を育んだことはなかったし、純粋な意味での男友達もいる。でも篤人のことが好きだ。ただ、篤人が男だから好きになったんじゃない。
切り替えるように大きく伸びをして、ぶらぶらと首を揺らした。ふーと大きく息を吐く。
「なんか水野さんといると楽なんだよな。俺が篤人のことが好きだって知っても、ひかずにいてくれる。それとは別に、単純に会話のリズムとかが合う。女は苦手なはずなのに、なんでかなぁ」
「わたしもそうだよ。最初こそ、つきまとわれるのが嫌だったけど。話していくうちに、和田くんの相槌のうちかたとか、わたしの意見をじっと聞いて否定しないところとか、落ち着く」
曖昧に笑って、込み上げる嬉しさをごまかす。彼女も俺と同じように思ってくれていたなんて。
それに、大切な友達である橋本さんに誤解されても、俺が彼女につきまとう理由は黙っていてくれる。
いい子じゃん。この子、いい子じゃん。
篤人も、彼女と舞は別人だということは十分にわかってると言っていた。
重ねて好きになることはない、ということか……。 だったら。
「……篤人は、もしかしたら水野さんのことが気になってるかもしれない」
「え?」
「舞とは別の人間として……もしかしたら、もう……」
ツクツクボウシの鳴き声にかき消される。
ここにいるよ、誰かきて、早くきて。
最後にジューと鳴き終わると、もうその声は聞こえなくなった。
もうすぐ2学期が始まる。
