失われるとわかっていても、君の隣を手放したくない

 午後からは別のクラスが体育館を利用するため、全体練習は午前中で終わった。
 指定された教室で着替えを済ます。酒井と藤澤と今後の撮影予定について話し合っていると、篤人と阿部が教室を出て行こうとしていた。

「篤人! 帰るの?」

 さっきのことが気にかかる。篤人の気持ちが知りたかった。

「いや。これからS女子と打ち合わせ……だけど」

 クラス代表とダンス指導役のみ集まるのだという。それにしても、篤人の動揺がみてとれる。後半の練習もどこかうわの空で、S女子ダンス指導役の三浦さんに怒られ、みんなに失笑されていた。

「俺も行く」

 胸がざわめく。このままじゃ帰れない。



 打ち合わせ場所となる教室は開いておらず、水野さんたちが来るまで外で待つことになった。

「和田ちゃん……怒ってる?」

 上目遣いに篤人が呟く。

「和田ちゃん、水野のこと好きなんだろ?」
「そうだよ」

 ふてくされて返すと、一緒にいた阿部に鼻で笑われた。

「和田の愛は重いな」

 ぼそっと呟く阿部を睨みつける。まぁまぁ、と篤人が場を和ませていると、走ってくる水野さんの姿が目に入った。橋本さんや三浦さんも一緒だ。「ごめんね、遅くなって」と鍵を開けてくれる。
 みんなが教室に入っていく。俺はドアに寄りかかったままだ。
 水野さんに「入らないの?」と問われ「この打ち合わせは撮影しない」と返す。

「……ずいぶん積極的なんだな」
「!」

 水野さんの顔が、かぁっと赤くなった。
 その反応が苛立ちを加速させる。なんだか意地悪をしたくなる。

「傷つくよ? いいの?」

 傷つくのはいやだ、だからやめるね、と言ってくれればよかったのに。
 
「がんばる!」

 笑顔が返ってくた。やわらかく、ほどけるような笑顔。心がかき乱される。
 この気持ちはなんだ……?
 救いを求めるように天井を仰いだ。

 ああ、俺が水野さんに自分を重ねているんだと気づく。報われないのに突き進んで、悩んで、泣いて、それでもやっぱり、あきらめきれない。
 でも、彼女なりに考えて決めたことだから。

「やっぱり笑った顔は似てないな……。水野さんは水野さんってことか。俺も俺のやり方でいくから。いままでどおり、水野さんのことが好き——」
「なにしてんのよ~結菜! はやく始めるよ!」

 橋本さんに引きずられるようにして行ってしまった。
 じゃあな、と目で合図して、軽く笑いながらドアを閉めた。