失われるとわかっていても、君の隣を手放したくない

 合同練習が始まった。
 藤澤は今まで撮り溜めた画像の整理をするらしい。酒井と分担し、練習の様子を撮影する。
 ふと、水野さんが輪から離れていくのに気がついた。篤人と話をしながら、こっちに向かってくる。
 咄嗟に撮影をやめ、撮った映像を確認するふりをした。篤人がカメラを覗き込んでくる。

「いいの撮れてる?」
「まぁまぁだな」

 なんとなくふたりの近くに居づらくて、その場を立ち去る。すると、背後でパン!と手が合わさる音が響いた。

「はいっ、水野! ダンス確認するぞ、ほら最初から」
「はっ、はい!」

 かすかに、そんなやり取りが聞こえてきた。
 ロンドンに行っていた水野さんにとって初めての合同練習になるので、マンツーマンで教えて遅れを取り戻すのだろうか。

 胸がキリキリと痛む。
 なんだよ、これ……。
 痛みをかみ殺しながら、ふたりのことは見ないよう撮影に集中しようとした。


 とはいえ、見ないようにすればするほど気になってしまう。全体練習を撮影しながらも、体育館の隅で特別練習をするふたりに気持ちを持っていかれる。
 
 どうしても我慢できずに視線を()ると、ふたりは休憩中だった。
 体操服の胸部分を掴み、ぱたぱたと涼む篤人の隣に、タオルに頬を埋めるようにして汗を拭う水野さんがいる。
 あれだけ忠告したのに、どうして好きでい続けることを選んだのか。
 伝えなければ終わらないから?
 報われないとわかっていても、篤人に気持ちを伝えるつもり?

 ふたりが練習に戻るようだ。全体練習は休憩に入るらしく、することがない。ますます気にしてしまう。

 次は東西軍の戦いシーンの練習のようだ。殺陣(たて)のようにペアとなる生徒と絡み合う。刀などの武器は使用せず、あくまで手や足を使う。息を合わせて相手のパンチやキックを避け合う激しい踊りだ。
 篤人が相手役をやるらしい。水野さんが右パンチ、次は左キック、とすると篤人が反対側に避ける。ゆっくりと全体の流れを確認したところで、もう一度練習するらしい。
 ふと、カメラを構えた。撮影ならば不思議がられないし、ズームすることでよく見える。

 さっきと比べてペースが上がった。リズムよくやり合っていたところで、急にタイミングがずれた。
 左右を間違えたようだ。左胸に突き出された水野さんの拳を、篤人が受け止めた。
 篤人がセーフというようにニコッと笑う。
 触れ合うふたりを見て、胸が痛まないわけではなかったけれど、単なる事故だ。

 そこまではよかったのに——

 ほどけていく手を、水野さんが手繰り寄せ、つかまえた。そして指の間に指をとおし、結ぶようにきゅっと握ったのだ。

 時が止まる。

 カメラを外し、ふたりに視線を移す。表情までは見えないけれど、動揺した雰囲気が伝わってくる。
 居ても立ってもいられなくて、足が勝手に向かう。

「……なにやってんだよ」
 
 突っ立っているふたりを見比べた。
 どちらも火を噴いたように真っ赤な顔だ。

「なんていう顔して……」

 不穏な空気を察してか、橋本さんと阿部が走り寄ってくる。

「なになに、なんか事件?」
「……映像で確認する?」
「!?」

 意地悪な言葉が口を突いて出た。
 弾かれたように、篤人と水野さんが同時にカメラを見る。

「ムリムリムリ」
「だめー! お願い、それだけはやめてー!」

 ふたりが騒ぎ、阿部は堪えきれないといった風に声を抑えて笑っている。
 遠くから、おーいと呼ぶ声が聞こえ、見るとみんなが集合していた。練習が再開されるらしい。

 心のざわつきが収まらないまま、走り去るふたりを見つめていた。