失われるとわかっていても、君の隣を手放したくない

 連日、撮影・夏期講習・自習をまわしていく。勉強だけに染まるはずだった夏休みに、同級生やS女子の真剣な顔や笑い声が混ざる。
 たくさんの同級生の名前と顔を覚え、軽蔑していたS女子の意外な一面も知り(お嬢さま育ちの甘えたやつばかりだと思っていたが意外にたくましかった)、高2の今になって高校生活が彩っていくのを感じていた。




 8月に入り、より一層、蝉の鳴き声が勢いを増した。
 今日はS女子でB組C組の撮影だ。正門で名簿と学生証の突き合わせをしている列に並んでいると、ふいに視線を感じた。
 振り向くと、水野さんがいた。
 目が合う。

——この虹を見たとき、真っ先に桐島くんのことが頭に浮かびました。日本に、帰ります。

 彼女から送られた言葉が浮かぶ。何と返すべきかわからず、結局、返信していない。今でも返すべき言葉は見つからなくて、彼女の真っ直ぐな瞳から目を背けてしまう。
 タイミングよく俺の番になり、受付から声をかけられる。彼女が去っていく気配を背中で感じた。


 着替えて体育館に行くと、藤澤の隣にいるはずのない顔を見つけた。
 体操服姿の酒井だった。しかもカメラを持っている。
 驚きで声が出せず、瞬きばかりしていると、俺に気がついた酒井がきまり悪そうに笑った。

「俺も手伝う。てか、もともと俺らの仕事じゃん! 今まで全部任せておいて、ごめん」

 胸にじんわりと温かいものが広がり、沁みてくる。くるしくて息ができず、何も返せないでいた。
 酒井の隣で、藤澤が微笑んでいる。

「和田が夏期講習で来られなかったA組の親睦会の撮影、僕と酒井とF組数人で行ってきたんだよ」

 広げられたパソコンには、広間を貸し切って飲み食いする両校生徒の楽しげな写真があふれていた。
 ちゃっかり参加している酒井の写真もある。

「A組のダンステーマは集団行動だろ。みんなの動きをひとつにする必要があるから、まずは両校の親睦会を開いてチーム感を高めたんだってさ」

 そう話す酒井の横顔は、すごく楽しそうだった。

「知らなかった……」
「前、学校で会ったときに話そうとしたんだけど、おまえ忙しそうに出て行っちゃったからさ。藤澤経由で伝えることもできたんだけど、直接言いたくて……」

 図書室で会ったとき、俺を呼び止めたのは、このことを伝えるために……。

「和田、学校行事には興味ないんだと思ってた。それに、いつもひとりで決めちゃって協力を仰がないだろ。勉強したい気持ちを抑えて、撮影も全部引き受けて……。傍から見てて、いたたまれなくなってさ。あの和田がここまでやってんだ、俺らもやろうぜって、みんなに声かけたんだよ。同じ気持ちだったよ、みんなおまえのこと気になってた」

 気にしてくれていたなんて……。溢れそうな涙を押しとどめる。ありがとう、と言いたいのに、胸の辺りに言葉が詰まってうまく出てこない。

「あ……ありが……」
「んー?」
「あ、ありがとう!!」

 あはは、と酒井が笑う。藤澤も微笑んでいた。
 もう一度、ありがとう、と心のなかで呟いた。