失われるとわかっていても、君の隣を手放したくない

 夏休み初日の練習はS女子の体育館で行われた。セキュリティの問題もあり、正門前で学生証と名簿の突き合わせを行う。
 列に並んでいると、うしろから肩を叩かれ振り向く。藤澤だった。

「おはよう。暑いな」
「おはよ」
「ダンス撮影初日! ついにキタ!!」

 夏の暑さに負けないくらい熱いやる気にみなぎっている藤澤。機材が入っていると思われる、パンパンに膨らんだ鞄が揺れている。

「体操服もってきた?」
「ねぇよ。必要?」

 当たり前だろ!と背中を叩かれる。走ったり、ハシゴに登ったり、素早く切り替えたり、踊るように撮るんだ!とかなんとか言われる。
 画がブレるじゃねぇか、と思いつつ、明日から体操服を持ってくることにした。

 体育館に入ると、B組C組が集まっていた。
 S女子の体操服は、襟付きのポロシャツとラインの入ったえんじ色のハーフパンツ。すらりとした腕と足が伸びている。ほとんどの女子が髪を結んでいて、動くだび尻尾のように左右に揺れる。

「……やべぇ。女子の、しかもS女子の体操服姿……」
「こらこらこら。おまえの顔と発言のほうがやばいから」

 ごくりと生唾を飲みながら凝視する藤澤を制す。
 カメラを構えていると、みんながちらちらこっちを見てくることに気がついた。

「ちっ、みんな和田のこと見てやがる! ちょっと和田さ、気配消してくれる? カメラ目線の画像ばっかり集まると不自然なんだよな」
「無理だろソレ。どうやって気配消すんだよ」
「もしくは誰かに変身するとか……」

 藤澤のことは放っておこう。
 ぱたりとカメラを閉じた。練習が始まったら再開しよう。
 うしろから誰かが走ってくる音がした。

「お、篤人」
「和田ちゃん! おはよ! 撮影よろしくな!」

 密かに女子が湧くのが気配でわかった。「桐ちゃんも人気なんだなぁ」つまらなそうに呟く藤澤に同意して頷く。
 この場に水野さんがいたら、どう反応したかな。
 今ごろ、ロンドンで何を想っているんだろう……。