失われるとわかっていても、君の隣を手放したくない

 A校内で落ち着ける場所が思いつかなかったので、近くにある図書館に入った。併設された公園に続くホール部分にベンチがある。室内なので暑くはないし、しばらくここで話を聞こうと思った。

 どうしたんだろう。舞の存在を伝えてしまったから? やっぱり言わないほうがよかったのか……。

 水野さんの涙は止まり、柔らかそうな頬に乾いた涙の跡が残っていた。瞳は赤く目元は腫れ、くずれたメイクが痛々しい。

「………なにか黒いの? ついてる」

 目元を指差すと、慌てて手鏡を出して確認する。「マスカラ落ちちゃってる」そう呟いて、指でこする。
 S女子の校則は知らないが、メイクは許されているんだろうか。篤人と会えるから、そのために?
 好きな人の好きな人によく似ている顔を目立たせる。それは、彼女にとって苦しくはないのか……。

「それで……なにかあったの?」

 うつむいた彼女の顔を、はらりと落ちた髪が隠す。頷いたようにもみえたし、泣き出したようにもみえた。
 気になった一心で、彼女の髪をかき分け確認しようとしたら——
 ビクッと反応され、触れようとした髪ごと押さえて後ずさりされる。

「ごめん。また泣き出したかと思って」
「あ……」

 彼女の目が泳ぎ、恥ずかしそうに唇を噛む。「もう泣いてない。大丈夫だから」
 なんだかいけないことをしてしまったようだ。気まずい雰囲気になり、話題を変えようと思い立つ。

「ロンドン、いつ行くの?」
「夏休みに入ったら、すぐ」

 しばらく合同創作ダンスの練習にも出られないという。その口ぶりは、前に進みたいけれど諦めきれないときのやり切れなさを含んでいた。
 暗い雰囲気を変えたくてスマホを手に取る。「よかったら、ロンドンの写真送ってよ」
 水野さんの連絡先がリストに加わった。

「初めて自分から女と連絡先交換した」
「え!?」

  本当に? と笑った水野さんにほっとした。
 とりあえずはよかったのかな。
 頬に残る涙の跡を見て、ただそう思っていた。