授業終了のチャイムが鳴る。塾の自習室に直行しようと鞄を持った途端、担任から「和田、S女子との打ち合わせよろしく」と声をかけられた。
そういえばクラスの組み合わせを決定する打ち合わせがあった。頭からすっかり抜け落ちていた。
水野さんの怯えた顔が浮かぶ。当然かもしれない。舞と篤人の過去を知らない彼女からしてみれば、俺の行動は意味不明でこわいにちがいない。
ただ、俺だって舞似の顔は見たくない。しばらく会いたくなかったのに。
溜息まじりに会議室に入ると、S女子の姿はまだなかった。
黒板前の丸椅子に座り、楽しそうに話している篤人と目が合う。今日も板書係をしてくれるらしい。
軽く挨拶を交わしたが、すぐ話に戻ってしまった。
俺の公開告白をどう思ってる?
篤人の心の中には誰がいる?
その横顔に、そっと問う。
F組席に座り、さっさと終わらせて勉強したいと思っていると、がやがやとS女子が入ってきた。
俺を見つけた途端、表情を固め立ち止まった水野さんを、最高の笑顔で迎えてあげる。
「F組の酒井はクラス代表をおりました。代わりに、俺」
周りのS女子がキャーキャーと騒ぎ立てた。
深い溜息をつきながら、重い足取りで歩く水野さんを目で追う。篤人がいることに気がつくと、口元を緩ませる。
単純すぎるだろ、ほんとに恥ずかしいやつだ。
クラス案の共有が始まった。
合同創作ダンスをしたいクラスと、動画撮影をしたいクラスの大きくふたつに分かれる。A校S女子ともに、偶然にもF組G組が動画撮影を希望していた。この時点で動画撮影組の組み合わせが決まった。
篤人と水野さんはC組だ。ふたりのクラスが組んでしまう可能性が残ってしまった。
「どうした和田、不満か?」
思い切りふてくされているからか、先生に心配されてしまった。
「なんでもありません」と返すものの、みんなに失笑される。
俺が水野さんのクラスと組めなかったことを不満に思っている、そう受け取られたみたいだ。水野さんに公開告白したことは、もはや両校の全校生徒が知る勢いだった。
水野さんのほうも頭なんて抱えているもんだから、これまたみんなの失笑を誘ってしまった。
まったく、墓穴掘ってんじゃねーぞ。
先生は板書を見ながらダンス組の組み合わせを悩んでいるようだった。たしかに、どのクラスの希望案も似たようなもので、動画撮影組のようにすっきりと決まりそうもない。
すると、篤人がA組同士を丸で囲み、何か説明しだした。先生が何度か頷きながら提案に耳を傾けている。
いやな予感がする。
「よし、ではダンス組の組み合わせだが、同じ組同士で組むことにする。異議がある場合や複数のクラスで合同したい場合は、代表同士で話し合ってくれ」
……仕組んだよな? 篤人。
水野さんのことが好きなのか?
舞に似ているから?
俺は『水野さんのことが好き』なんだぞ?
なのに、なんで——
後半の時間をつかい、クラス代表ごとに集まって今後の計画を練ることになった。
G組のクラス代表が耳打ちしてくる。
「……F組、大丈夫か? 実質、すべての仕事は和田に任されてるって聞いたから」
「あー、うん。大丈夫」
何が大丈夫なのかわからないが、とりあえずそう返事をする。
G組クラス代表の藤澤は映画研究部に入っていて、今回の撮影に並々ならぬやる気をみせていた。S女子側も趣味はカメラだとか映画鑑賞が大好きだとかで、ものすごい熱量で今後の計画が立てられていく。
俺は適当に相槌をうちながら議論に参加しているフリをしていた。
終了のチャイムが鳴り、連絡先を交換していたところで、篤人と水野さんが黒板を消している姿が目に入った。
お互い逆側の端から消し始め、真ん中まできたところで黒板消しがコツンと当たる。粉を払いながら仲良く話をしている。
誰とでも笑顔で話す篤人だけれど、水野さんと話しているときは特に嬉しそうだ。傍目にみても雰囲気の良いふたりをじっと見つめる。そこに俺の入る隙間なんてないのか……?
あれ……?
ふたりを取り巻く空気が変わった。重く、冷たく固まる。
篤人が、逃げるように小走りで教室から出ていく。
ぽつん、と取り残された水野さんが立ち尽くしている。
水野さんといつも一緒にいる派手な女が近づき、ふたりが帰ろうとしたとき、ふいに目が合った。
彼女は怯えていた。
なにかあったのか……?
あったとしたら、なんだ……?
そういえばクラスの組み合わせを決定する打ち合わせがあった。頭からすっかり抜け落ちていた。
水野さんの怯えた顔が浮かぶ。当然かもしれない。舞と篤人の過去を知らない彼女からしてみれば、俺の行動は意味不明でこわいにちがいない。
ただ、俺だって舞似の顔は見たくない。しばらく会いたくなかったのに。
溜息まじりに会議室に入ると、S女子の姿はまだなかった。
黒板前の丸椅子に座り、楽しそうに話している篤人と目が合う。今日も板書係をしてくれるらしい。
軽く挨拶を交わしたが、すぐ話に戻ってしまった。
俺の公開告白をどう思ってる?
篤人の心の中には誰がいる?
その横顔に、そっと問う。
F組席に座り、さっさと終わらせて勉強したいと思っていると、がやがやとS女子が入ってきた。
俺を見つけた途端、表情を固め立ち止まった水野さんを、最高の笑顔で迎えてあげる。
「F組の酒井はクラス代表をおりました。代わりに、俺」
周りのS女子がキャーキャーと騒ぎ立てた。
深い溜息をつきながら、重い足取りで歩く水野さんを目で追う。篤人がいることに気がつくと、口元を緩ませる。
単純すぎるだろ、ほんとに恥ずかしいやつだ。
クラス案の共有が始まった。
合同創作ダンスをしたいクラスと、動画撮影をしたいクラスの大きくふたつに分かれる。A校S女子ともに、偶然にもF組G組が動画撮影を希望していた。この時点で動画撮影組の組み合わせが決まった。
篤人と水野さんはC組だ。ふたりのクラスが組んでしまう可能性が残ってしまった。
「どうした和田、不満か?」
思い切りふてくされているからか、先生に心配されてしまった。
「なんでもありません」と返すものの、みんなに失笑される。
俺が水野さんのクラスと組めなかったことを不満に思っている、そう受け取られたみたいだ。水野さんに公開告白したことは、もはや両校の全校生徒が知る勢いだった。
水野さんのほうも頭なんて抱えているもんだから、これまたみんなの失笑を誘ってしまった。
まったく、墓穴掘ってんじゃねーぞ。
先生は板書を見ながらダンス組の組み合わせを悩んでいるようだった。たしかに、どのクラスの希望案も似たようなもので、動画撮影組のようにすっきりと決まりそうもない。
すると、篤人がA組同士を丸で囲み、何か説明しだした。先生が何度か頷きながら提案に耳を傾けている。
いやな予感がする。
「よし、ではダンス組の組み合わせだが、同じ組同士で組むことにする。異議がある場合や複数のクラスで合同したい場合は、代表同士で話し合ってくれ」
……仕組んだよな? 篤人。
水野さんのことが好きなのか?
舞に似ているから?
俺は『水野さんのことが好き』なんだぞ?
なのに、なんで——
後半の時間をつかい、クラス代表ごとに集まって今後の計画を練ることになった。
G組のクラス代表が耳打ちしてくる。
「……F組、大丈夫か? 実質、すべての仕事は和田に任されてるって聞いたから」
「あー、うん。大丈夫」
何が大丈夫なのかわからないが、とりあえずそう返事をする。
G組クラス代表の藤澤は映画研究部に入っていて、今回の撮影に並々ならぬやる気をみせていた。S女子側も趣味はカメラだとか映画鑑賞が大好きだとかで、ものすごい熱量で今後の計画が立てられていく。
俺は適当に相槌をうちながら議論に参加しているフリをしていた。
終了のチャイムが鳴り、連絡先を交換していたところで、篤人と水野さんが黒板を消している姿が目に入った。
お互い逆側の端から消し始め、真ん中まできたところで黒板消しがコツンと当たる。粉を払いながら仲良く話をしている。
誰とでも笑顔で話す篤人だけれど、水野さんと話しているときは特に嬉しそうだ。傍目にみても雰囲気の良いふたりをじっと見つめる。そこに俺の入る隙間なんてないのか……?
あれ……?
ふたりを取り巻く空気が変わった。重く、冷たく固まる。
篤人が、逃げるように小走りで教室から出ていく。
ぽつん、と取り残された水野さんが立ち尽くしている。
水野さんといつも一緒にいる派手な女が近づき、ふたりが帰ろうとしたとき、ふいに目が合った。
彼女は怯えていた。
なにかあったのか……?
あったとしたら、なんだ……?
