失われるとわかっていても、君の隣を手放したくない

 打ち合わせの2日後、文化祭のクラス発表を兼ねる形で、A校とS女子で合同創作ダンスを行うことが決定してしまった。両校の体育祭が終わったあと、文化祭の始まる前に、外部の施設を貸し切って開催するのだという。
 来週の火曜日のロングホームルームでクラスでやりたいことをまとめ、水曜日にS女子と打ち合わせをすることになった。
 俺が酒井の代わりに出席した初回打ち合わせの様子は、その場にいた先生経由で担任に伝わっていた。

「和田、大丈夫か? これからどうする」

 まぁ何とかなるでしょう、と曖昧に返事をする。
 クラスメイトには、勝手にリーダー代理を引き受け、中止と動かせなかったことに対して責められるかもしれない。ただ、S女子からの提案であった舞台裏の撮影ならば、各自で分担できるし負担も少ないだろう。
 どちらにせよ、学校としての正式な結論をF組のみんなに伝えなければならない。単位にも関わることだ。特別に時間をもらい、みんなに事情を話すことにした。
 
「……という経緯で、開催は中止という方向にならず、文化祭の一部を体育祭と融合する形で決定しました。代わりに、相当な準備期間を要する文化祭のクラス発表はなし、有志で企画する人は別途受けつけるようです。合同創作ダンスといっても、例えば練習風景を撮影し、編集して上映するという裏方の仕事もあります。必ずダンスをしなければならない、というわけではありません」

 みんなはただじっと聞いていて、野次は飛ばず、しかし重い沈黙があった。

「……和田、おまえはどうしたい?」

 沈黙を破ったのは酒井だ。開催は反対だと交渉できなかったことを責めるのではなく、ただ問われる。

「俺は……裏方の動画撮影班でいいと思ってるよ」
「そうか……異義のあるやつはいるか?」

 着席したまま、ぐるりと周りを見まわしながら酒井が訊く。
 異議はないと首を振る者、何も言わず見つめ返す者、さまざまだけど反対を唱えるやつはいなかった。

「和田、おまえが動画撮影班をすることについて反対意見があるやつはいなさそうだよ?」

 口の端を上げながら言う酒井に、なんとも言えない違和感を感じた。
 しかし、相当な混乱を想像していたぶん、不気味にも早く議論が決着したことには安堵した。

「了解。みんなありがとう」

 ちなみにクラス代表は酒井から俺に変更された。
 これにて一見落着なはずだったのに。
 蓋を開けてみれば酒井の言ったとおり、『俺だけが』動画撮影班になっていた。つまり、俺以外全員仕事はしない。先生に告げ口することもできたけれど、こんなことで助けを求めていると思われるのは(しゃく)だ。
 それに、説得して決裂するくらいなら、全ての仕事を請け負えばいい。勝手にリーダー代理を引き受け、中止へと動かせなかったのは俺のせいだから。黙って全部やればいい。なんとかなるだろう。そう思っていた。