稲穂と麺太の日常

 稲穂の部屋の布団は、麺太と寝るのに窮屈さを感じさせないサイズ。眠る時はこれでもか、というくらいに麺太は稲穂にくっついてくる。今夜もそれは同じだ。
 先に寝息を立てている麺太。その寝顔をぼんやりと眺めた後、稲穂はそっと、麺太の唇に自分のものを重ねた。触れるだけの軽いもの。麺太は起きなかったが、嬉しそうに笑っていた。
 一緒にご飯を食べて、一緒に家を出て、帰ってからも一緒にいて、風呂はほとんどの場合は別で、同じ布団で一緒に眠る。
 気付いた時には繰り返されるようになった、稲穂と麺太の毎日。この繰り返しが終わる日など、今の稲穂にはまるで想像できなかった。

 ずっと一緒にいて。
 どこにも行かないで。

 麺太の声で再生される言葉に、稲穂は一人頷いて、麺太の身体を抱き締めた。
「稲穂ちゃん……」
 大好き、の言葉は、声は、甘く、優しく。
「……   」
 稲穂が口にした返事は、麺太が起きていれば、とても喜んだだろう。
 あと何回、それを口にできるだろう。
 あと何回、こんな夜を共に過ごせるだろう。
 そんなことを考えて、悲観するような年齢ではない。麺太の温もりに心を落ち着かせながら、やがて、稲穂も眠りに就いた。

 良い夢を、これからも。