稲穂が帰宅すると、いつも通りソファーの足元に座った麺太が、スマホを睨み付けて唸っていた。
またやっているなと思いながら、今日はソファーに直行する稲穂。昨日の夜に冷蔵庫を見た時に、買い足すものはなさそうだったから、学校帰りに買い物をしてこなかったのだ。麺太の隣に腰を降ろすと、麺太はスマホを見たまま稲穂に身体をくっつけてきた。
「おかえりー」
「ただいま。今日もお題やってんのか?」
「そうそう。今日のはね、地面が見えないほどの桜の花びら」
「なっが」
麺太のスマホの画面を覗き込むと、画面一面に文字が綴られている。稲穂が戻ってくるまでの間に書いてきたのだろう。それだけ確認して、稲穂は画面から目を離した。
ネットの小説投稿サイトで公開されている、麺太の小説。書かれているのは主にボーイズラブ。麺太がまだ中学生ということと、成人指定の作品の投稿はそのサイトでは禁止されていることから、あまり過激な作品は書いていない。
実体験を元に激しいのも書いてみたいな、といういつかの麺太の呟きは、綺麗に聞き流させてもらっている。
以前から麺太の作品は読んでいいと言われているから読ませてもらい、今回のお題小説も稲穂は全て読んでいた。麺太、いや、ユーザー名メンメンメンマが書いた作品は面白く、中には優しい気持ちになれるものもあった。そしてもれなく、攻めの男が天パだった。
お題を提供している人物の情報も、麺太の作品ページから調べることができて、その人物のユーザーページを見てみると、以前より他のユーザーに向けてお題を提供し、自分でも書いて公開しているようだ。
「このお題でさ、終盤まで書けたんだけどさ……」
そのように話す麺太の声が、自然と暗くなっていく。どうしたんだと稲穂が視線を向けると、麺太はスマホを見つめたまま、頬を膨らませた。
「地面が見えないほどの桜の花びら、に攻めの天パが埋まってる感じなの」
「……集めた落ち葉に埋まる感じか」
「そんな感じ。でもそうするとさ、攻めの素敵な天パが、見えなくなっちゃうと思わない?」
「どういう状況で桜の花びらに埋もれてんのか知らねえけどよ……そもそも、桜の花びらに埋もれるとか、できんのか?」
稲穂の疑問の言葉に、へ? と麺太は声をもらす。
「桜の花びらって、落ち葉よりも小さいだろう? 地面は隠せても、寝転んだ人間を隠すには量が足りないんじゃねえか?」
「……そう、かな」
頬に手を添えて考え込む麺太に、稲穂は少しだけ、余計なことを言ったかと、自分の発言を後悔する。
うーん、うーん、と唸った後で、よしと言って、麺太は忙しなく指を動かしていき、満足そうな顔をしてスマホをローテーブルの上に置いた。そのまま、稲穂に抱きついてくる。
「執筆はいいのか?」
「今は稲穂ちゃんを堪能したい」
稲穂の胸元にぐりぐりと、頭を押し付けてくる麺太に、稲穂は苦笑を溢しながら、恋人の背中を撫でた。
「今年さ、二人でお花見行ったじゃない?」
どこか気の抜けた声音で、麺太が問うてくる。行ったな、と稲穂が返事をすると、嬉しそうに麺太は声を上げた。
「写真、いっぱい撮ったよね」
「そうだな」
「本当はさ、稲穂ちゃんとのツーショット、欲しかったんだよね」
「失敗したもんな」
自撮りするように、スマホで撮ってみたものの、何度やっても上手くいかなかった。
「地面ばっかり撮れちゃってさ。あれ、確かまだ残してたと思う」
「地面の写真を?」
「稲穂ちゃんとの大切な思い出だから、消したくなかったんだもん」
それを見て、書き直そうと思う。
麺太の言葉に、一瞬、背中を撫でる手が止まる。
「いいのか、それで。せっかく終盤まで書いたんだろう?」
「天パ攻めの素晴らしさを世に広める為だよ。妥協なんて駄目、絶対」
「……お前がいいならいいけど」
微妙に恥ずかしかったりするんだよな、天パを推されるの、と稲穂は思いながら、もういいよと言われるまで、麺太の背中を撫で続けた。
またやっているなと思いながら、今日はソファーに直行する稲穂。昨日の夜に冷蔵庫を見た時に、買い足すものはなさそうだったから、学校帰りに買い物をしてこなかったのだ。麺太の隣に腰を降ろすと、麺太はスマホを見たまま稲穂に身体をくっつけてきた。
「おかえりー」
「ただいま。今日もお題やってんのか?」
「そうそう。今日のはね、地面が見えないほどの桜の花びら」
「なっが」
麺太のスマホの画面を覗き込むと、画面一面に文字が綴られている。稲穂が戻ってくるまでの間に書いてきたのだろう。それだけ確認して、稲穂は画面から目を離した。
ネットの小説投稿サイトで公開されている、麺太の小説。書かれているのは主にボーイズラブ。麺太がまだ中学生ということと、成人指定の作品の投稿はそのサイトでは禁止されていることから、あまり過激な作品は書いていない。
実体験を元に激しいのも書いてみたいな、といういつかの麺太の呟きは、綺麗に聞き流させてもらっている。
以前から麺太の作品は読んでいいと言われているから読ませてもらい、今回のお題小説も稲穂は全て読んでいた。麺太、いや、ユーザー名メンメンメンマが書いた作品は面白く、中には優しい気持ちになれるものもあった。そしてもれなく、攻めの男が天パだった。
お題を提供している人物の情報も、麺太の作品ページから調べることができて、その人物のユーザーページを見てみると、以前より他のユーザーに向けてお題を提供し、自分でも書いて公開しているようだ。
「このお題でさ、終盤まで書けたんだけどさ……」
そのように話す麺太の声が、自然と暗くなっていく。どうしたんだと稲穂が視線を向けると、麺太はスマホを見つめたまま、頬を膨らませた。
「地面が見えないほどの桜の花びら、に攻めの天パが埋まってる感じなの」
「……集めた落ち葉に埋まる感じか」
「そんな感じ。でもそうするとさ、攻めの素敵な天パが、見えなくなっちゃうと思わない?」
「どういう状況で桜の花びらに埋もれてんのか知らねえけどよ……そもそも、桜の花びらに埋もれるとか、できんのか?」
稲穂の疑問の言葉に、へ? と麺太は声をもらす。
「桜の花びらって、落ち葉よりも小さいだろう? 地面は隠せても、寝転んだ人間を隠すには量が足りないんじゃねえか?」
「……そう、かな」
頬に手を添えて考え込む麺太に、稲穂は少しだけ、余計なことを言ったかと、自分の発言を後悔する。
うーん、うーん、と唸った後で、よしと言って、麺太は忙しなく指を動かしていき、満足そうな顔をしてスマホをローテーブルの上に置いた。そのまま、稲穂に抱きついてくる。
「執筆はいいのか?」
「今は稲穂ちゃんを堪能したい」
稲穂の胸元にぐりぐりと、頭を押し付けてくる麺太に、稲穂は苦笑を溢しながら、恋人の背中を撫でた。
「今年さ、二人でお花見行ったじゃない?」
どこか気の抜けた声音で、麺太が問うてくる。行ったな、と稲穂が返事をすると、嬉しそうに麺太は声を上げた。
「写真、いっぱい撮ったよね」
「そうだな」
「本当はさ、稲穂ちゃんとのツーショット、欲しかったんだよね」
「失敗したもんな」
自撮りするように、スマホで撮ってみたものの、何度やっても上手くいかなかった。
「地面ばっかり撮れちゃってさ。あれ、確かまだ残してたと思う」
「地面の写真を?」
「稲穂ちゃんとの大切な思い出だから、消したくなかったんだもん」
それを見て、書き直そうと思う。
麺太の言葉に、一瞬、背中を撫でる手が止まる。
「いいのか、それで。せっかく終盤まで書いたんだろう?」
「天パ攻めの素晴らしさを世に広める為だよ。妥協なんて駄目、絶対」
「……お前がいいならいいけど」
微妙に恥ずかしかったりするんだよな、天パを推されるの、と稲穂は思いながら、もういいよと言われるまで、麺太の背中を撫で続けた。



