君を描くたび恋を知る (仮)

 次の日の放課後、クラスがいつもよりざわついていた。部活動見学の話題が、あちこちから聞こえてくる。

僕はといえば、机の上の入部届とかれこれ十分間睨めっこをしていた。

というのも、思ったより一年生の間で美術部の人気が高く、すでに部員もたくさんいることが分かってしまったからだ。

中学のときも美術部だったが、三学年合わせてたったの四人しかおらず、全員がバラバラに好きなことをしていたような部活だった。


そんな僕には、いきなりハードルが高すぎる……。

(でもこの学校の美術部、設備がいいらしいし、
やっぱり絵が描きたい。けどなぁ……)


ここにきて、入る部活動に悩むことになるとは思ってもいなかった。

僕には、教室の隅でノートに落書きしてるくらいが、お似合いなのかもしれない。

……現に今も、その最中である。

(先生、僕……無理かもしれません。ごめんなさい…)

僕にこの学校を勧めて、後押ししてくれた中学の先生を思い出し、心の中で謝る。

(でもやっぱり絵、描きたいな)

絵は僕にとって心の拠り所なんだ。人の多い場所は苦手だけど……背に腹はかえられない。

(でも、もうちょっとだけ…まだ人多そうだし……)

僕だって人の多いところに慣れたいとは思っているけれど、それがなかなか難しい。

時計を見てみるとそろそろ部活終了時刻が迫っていた。
僕の中では、終了直後に滑り込みさせてもらうプランを立てている。
水沢先生も、多分許してくれる……はずだ。

考えとは裏腹に重くなっていく足をどうにか動かしながら、帰る準備を始めた。

―*―*―*―*―

「失礼します……」

音を立てないように、そっとドアを開けてみる。
中を覗いてみると、もうみんな帰った後のようだ。

(ベストタイミング!でかした僕……)

でも全く誰もいないというのは、勝手に入っても良いものか不安になる。

(まぁ、大丈夫…だよね)

意を決して入った部室の中には、踊り場にあった倍くらいの数の絵が飾られていた。

すごい……。

さっきまでの緊張が嘘みたいに、気づけば僕の足は部室の中へ向かっていた。

一枚一枚、絵の前に立って眺めていく。
どの絵もとても丁寧で、時間をかけて描かれたものなのがはっきりと伝わってきた。

(この部活に入れば僕もこんな風に描けるのかな……)

たくさんの絵に見惚れていたその時、突然名前を呼ばれた。

 「羽田……くん?」

誰かが入ってきたことに全く気付かなかった。
声の主を確かめる間もなく、頭を下げる。

 「勝手に入ってしまい、すみません!!すぐ帰りま……す、?」

(って、あれ?……大海くん!?)

昨日の出来事が頭によぎる。

──どうして大海くんがここに?

 「あぁ、やっぱり羽田くんだ。」

そう言って、僕の方へ歩いてくる。

 「凄いよね、ここの美術部。羽田くんは、美術部決定?」

 「えっと…うん。そのつもりで──」

ふと、大海くんから妙な圧を感じた、気がした。

 「──そのつもり。」

……頷いてる。

どうやら、敬語が原因だったらしい。
分かってはいても、いきなりタメ口で話すのは違和感がすごい。
今までは誰に対しても敬語だったし、憧れの相手になんて、なおさらだ。

 「そっか。」

そこで会話が途切れる。
あいにく僕に、会話を広げる才能はない。

それに、昨日のこともある。
盗み聞き(故意ではないが)をしてしまったこともあり、勝手に気まずさを感じてしまう。

 「あの、大海くんは部活、決まってる……の?」

沈黙に耐えきれず、僕から切り出す。

 「いやー、うん。まだ悩み中なんだよね」

その一言で、聞かなかった方が良かったと分かった。
大海くんの表情が、ほんの一瞬、曇って見えたから。