君を描くたび恋を知る (仮)


 (結局、昨日より早く来ちゃった……)


 昨日の朝と、同じ僕一人の教室。
早く教室に入りたかったという理由はある。けれど、それ以上に、昨日彼が言った「また」という言葉が、頭から離れなかった。

今までにないほど(僕にしては)早起きをしてしまい、お母さんにまで驚かれる始末だ。


話す機会なんて現れないはずだったのに。
今日も話せるかもしれない、と期待してしまっている自分が怖い。


それに、本当に彼が来たとしても、僕には上手く会話できる自信なんてない。

いつも通り席につきノートと筆記用具を取り出した。ノートを開き、白いページを見つめる。

(期待しても、意味ないのに)

昨日はたまたま同じ時間に来ただけ。きっともう僕のことなんて忘れてる。

そうやって自分に言い聞かせながら、鉛筆を走らせようとしたが、またいつものように彼の姿を描こうとしてしまい、ため息をつく。

時計を確認すると、もう昨日大海くんが来た時間はとっくに過ぎていた。

(少しだけ寝よう…)

今日は早く目が覚めてしまったせいで、瞼が重い。

さっきから脳裏に浮かぶ、あの笑顔と声。
それをどうにかしたくて、机に突っ伏した。

―*―*―*―*―

──耳元で音がする。あのまま寝てしまっていたらしい。音の正体が気になって顔を上げる。

ゴツン、と鈍い音がした。

「「いっっ」」

声が重なる。
ピントの合わない目を擦りながら前を見ると、いつのまにか前の席に大海くんが座っていた。

 「わぁぁぁ、あの、その、ごめんなさい!!」

慌てて席を立って謝罪する。夢なのか現実なのか分からないが、この際夢の方がありがたい。

 「……羽田くん、しーっ。目立っちゃうよ」

少しだけ困ったように笑って、指を口元に立てた。

 「えっ、!?」

周りを見てみると、知らない間に登校していたクラスメイトたちが皆こっちを見ていた。恥ずかしさと申し訳なさで顔が真っ赤になる。

 (やっちゃったぁぁぁぁ)

 
椅子に座り、手のひらで顔を隠す。これは恥ずかしすぎる……。

 「ごめんね、驚かせちゃって。あと、頭ぶつけちゃってごめん!!大丈夫だった?」

どうやら顔を上げた時に、僕の頭と大海くんの顎がぶつかってしまったらしい。少しだけ顎が赤くなっていた。

 「僕は大丈夫だけど大海くんが……あといつからそこにいた、んですか?」

まだ顔を覆う手は外せない。指と指の隙間から大海くんを見る。

 「朝来た時からずっと。今日この席のやつ、休みでさ。話しかけたかったけど気持ちよさそうに寝てたから……」

ずっと寝顔見られてたのか……。恥ずかしさが倍増し、ようやく冷めてきた頬の火照りが再度戻ってきた。

(ん…?話したかった?ずっと見てた?それはどういう……)

たくさん友達もいるし、僕に構っている暇なんか無いはずなのに。
一人で百面相をしていた僕は次の瞬間、大きな過ちに気がついた。

(しまった、ノート開いたままだ!!)

しかも開いていたのは入学初日のページだった。急いでノートを閉じるが、もう遅い。

 「……見た?」

見ていないと言ってほしい。

 「ごめん。開いてたから、つい。その絵、もしかして入学式の日描いてたやつ?」

(やっぱり見られてた……)

なかったことには、できないらしい。
もう正直に答えるしかない。

 「そう──」

言いかけたその時だった。

 「大海くん、ちょっといいかな?昨日話してた部活のことなんだけど。」

 「あ、水沢先生。おはようございます」

 「おはようございます…」

僕も後に続いて挨拶をする。
部活の話?確か帰宅部と言っていたはず……。

 「ごめん、邪魔しちゃったみたいね。昼休みでもいいけど、どうする?」

大海くんは僕をちらりと見て、すぐに視線をそらした。

 「今からで大丈夫ですよ!教室の外で話しても大丈夫ですか?」

 「いいわよ。じゃあ、行きましょう。」

僕には聞かれたくない話、なのかな
わざわざ教室から出なくてもここで話せばいいのに。

どうしてか、胸の辺りが妙に騒がしい。

(勝手に傷ついて、馬鹿みたいだな僕)

去り際に、大海くんが振り返る。

 「……あ、羽田くん」

思わず顔を上げた。

 「また、敬語になってたよ」

それだけ言って、先生と教室を出ていった。



教室の扉が閉まる音がして、ようやく周囲のざわめきが戻ってきた。

どうしてだろう、彼と話していると心臓がうるさい。

ノートの話が終わって助かったはずなのに。
どうして僕は、少し残念だなんて思ってしまったんだろう。