君を描くたび恋を知る (仮)

 「やっぱり苦手だなぁ…」教室の後ろの席でノートを開き、一人ため息をつく。

 「同じクラスになれたね!!」
 「これからよろしくな!!」

教室中にみんなの楽しそうな声が響き渡る。

今日は高校の入学式。今はその後のホームルームの時間だ。
新年度のホームルームなんて嫌な予感しかしないし、良い思い出もない。

そんなことを考えていると、教室のドアが開いた。

 「はーい、静かにして下さい。私は今日からあなたたちの担任をする水沢(みずさわ)といいます。まずは私の自己紹介からさせてもらいますね。」───

想像はしてたけど嫌な予感がする。

 「では次はみなさんに自己紹介をしてもらおうと思います!!」

(やっぱり……)

僕は心の中で大きなため息をついた。
どうせ今後僕の事を気にする人なんていないのに、自己紹介なんてしても意味はない。
さっき見まわした感じ、もうみんなこのクラスに馴染んでいた。一人で静かに絵を描いていたのなんて僕だけだ。

 「じゃあ、出席番号一番の大海くんからお願いね」

 「はい!」 

みんなの視線が声の主に集まる。

 「大海(おおみ)中学校から来ました、大海暁人(おおみあきと)です。出身中学と名字が同じやつって覚えてくれると嬉しいです!部活は帰宅部の予定です。これからよろしくお願いします!!」

教室内がドッと笑いに包まれた。少しだけ緊張感が漂っていた教室の空気が緩まる。
既にこのクラスの中心が決まったみたいだ。
コミュ力は高いし、誰からも好かれそう、おまけに顔もいいなんて僕とは比べ物にならない。周りの女子たちもざわついている。

(出身中学、名前、部活…出身中学、名前── )

心の中で呪文のように繰り返す。最初の人が自己紹介の基盤を作ってくれて助かった。あとはこの通りに…

 「最後に羽田くん、お願いします」

もう僕の番!?びっくりして勢いよく席を立つ。

 「はっっ、はいっっ」

えっと…落ち着け、確か…

 「出身中学は新田中学校で、名前は、羽田遥(わだはるか)、部活は、美術部、の予定です……」

一息で言い、席に着く。早口になってしまったけどちゃんとできた。
周りを見渡してみると、もう僕のことを見ている人は誰もいない。

(よかった…)

緊張しすぎて机に足を引っ掛け、盛大に転んでしまった中学の記憶が蘇る。今思い出しただけでも寒気がするほどだ。

 「では、また明日みなさんの元気な顔が見れる事を楽しみにしています。誰か号令お願いしても良いかな?」

 「じゃあ俺、やりますよ!」

この声は確か、一番最初に自己紹介をした大海くんだ。

 「気をつけ、礼。さようなら!!」
 「「さようならー!」」

みんなの元気な声が教室に響く。

自由に行動ができるようになったクラスの大半が、彼の元に集まった。男子からも女子からも質問攻めにされている。

きっと彼は僕の憧れを全て持っている人なのだろう。
手元のノートを見てみるともう既に彼の姿が映っていた。

(また描いちゃってる)

これは僕の悪い癖だ。
ぼーっとしていると自分でも知らない間に絵を描いてしまう。しかも話したこともない、これから話すことも多分ない他人の絵。

 「僕も帰ろう……」

僕は小さなため息をつき、無意識のはずなのに、驚くほど丁寧に描かれた憧れをそっと閉じて教室を出た。

その時はまだ、彼が僕を見つめていたことを知らなかった。