君を描くたび恋を知る (仮)

(※1つ前の話に変更があります。1月10日以前に読んでくださっていた方へ(*_ _)) 

↓↓↓本編



あの後のことは、ぼんやりとしか覚えていない。

ただ、あの言葉とあの距離が、僕の脳裏に焼き付いて離れなかった。

家に帰るまでの道も、帰ってからも、
ベッドに寝転がっている今だって。

目を閉じるたび、同じ場面が浮かんでは消えて、なかなか寝付けない。

(『俺の絵、思い出して──』)

 「俺の、絵……」

一人、確かめるように声に出してみる。

記憶の断片をかき集めてみても、まるで見当がつかない。

 「ゔぅ……」

考えるのをやめたいのに、頭の中が騒がしい。

まだ出会って一週間しか経っていないのに、
大海くんは謎ばかりだ。

暗い顔の意味は?
勧誘されていた理由は?
「変わってない」って、何───。

布団に潜り込む。

(はぁ……)

こんなの、考えない方が難しい。

僕は無理やり瞼を閉じて、朝を待った。
起きたら忘れていることを、少しだけ期待しながら。

けれど、週末を越えても、
あの日の出来事は、一度も頭から離れなかった。

――*――*――*――*――

 「入部届の締め切りは今日までです。提出する人は前に来てください」

先生の声に、はっと我に返る。

月曜日の朝。

鞄の中から、もう白紙じゃなくなった入部届を取り出し、前に出る。

 「先生、お願いします」

 「はい。ありがとう」

水沢先生は書類に目を落とすと、少しだけ表情を緩めた。

 「これからよろしくね」

 「よろしくお願いします」

軽く会釈をして、その場を離れようとした時だった。

 「……まさか入ってくれるなんて。あの時は、しつこく勧誘してごめんなさい」

聞き覚えのある話に、足が止まる。

 「いえ、全然。こちらこそ、よろしくお願いします」

大海くんだ。

(……同じなんだ)

同じ美術部。
これからも、放課後を一緒に過ごす。

嬉しいはずなのに、胸の奥が落ち着かない。

僕は俯いたまま、自分の席に戻った。

ノートを開き、ペンを握る。

友達に囲まれて、教室の中心で輝いている彼を描こうとしては消し、また消す。

──もう、ただの『憧れ』とは呼べないような気がする。

ノートに映っていくのは、どうしても、今見ている彼じゃない。

少し照れたような顔や、暗い顔。

いつも放課後に見ていた、彼の表情ばかりが映っていく。

(今日は、早く家に帰って寝よう)

寝不足もあるし、学校にいると、どうしても昨日のことを考えてしまう。

そのとき、水沢先生が声を出した。

 「静かにしてくださーい」

騒がしかった教室が静まり返り、視線が前に集まる。

 「部活動は、今日からあります。絶対に忘れず行ってくださいね!」

(ん? 今なんて──)

「今日から部活!?」
「聞いてないってー!」

教室がざわつく。
僕も知らなくて、思わず目を見開いた。

「あれ、言ってなかった!? ごめん!!」

水沢先生は教卓で手を合わせる。

(水沢先生……)

早く帰ろう、なんて、できることじゃなかったみたいだ。

――*――*――*――*――

 また、授業に集中できなかった。最近は、こんなことばかりだ。

 「暁人、帰ろうぜー!!」

 「あぁ庄、俺、部活あるから」

大海くんたちの会話が聞こえてくる。

 「は?お前、自己紹介のとき帰宅部予定って 言ってなかった?」

 「予定は未定。人、待たせてるから。じゃあな」

 「まじかよ。じゃあまた明日」

そんな会話を横目で聞きながら、部室に行く準備をする。

横にいるのは確か、河島庄司くん……だったと思う。

人を待たせてるって、誰をだろう。

気になって教室を見渡してみるけれど、それらしい人はいない。

部活の人かな。

そう思っていたその時、大海くんが鞄を背負ってこちらに歩いてきた。

 「一緒に行こ」

(え!?)

 「待ってる人、いるんじゃ……?」

 「あ、聞こえてた?」

 「うん。行かなくていいの?」

そう僕が聞くと、大海くんは呆れたような顔をして言った。

 「待たせてる人なんていないよ。あいつ話長いから、言い訳」

 「えぇ……」

(あれ? 普通に話せてる)

もう気まずくて話せない気がしていたのに。

 「ほら、行こう」

 「う、うん」

そう言って、何事もなかったように、僕たちは並んで部室まで歩いた。

──大海くんは、昨日のこと気にしてないのかな。

話せてはいるけれど、昨日のことがあって、内心はどうしても気まずい。

二人になると、あの距離を思い出して、また顔が熱くなる。

それでも、大海くんはいつもと変わらない様子で、何も言わなかった。

(こんなに落ち着かないの、僕だけなのかな……)

 「羽田くん、ストップ!!」

悶々と考えていると、いきなり服を引かれた。

 「!?」

 「ほら、もう部室着いてるよ」

いつの間にか、もう部室に着いていたみたいだ。

そのまま歩いていたら、危うく通り過ぎてしまうところだった。

「ごっ、ごめん。ぼーっとしてて」

(今、僕絶対変な顔しながら歩いてた……恥ずかしすぎる)

よく家族に、考え事をしながら歩いていると
「変な顔してるよー」って笑われる。

自覚はないけど、それを大海くんに見られてしまったと思うと恥ずかしくなる。

 「大丈夫。入ろ」

そう言って、大海くんは部室のドアを開けた。

僕は恥ずかしさで赤くなった耳を押さえながら、後に続いた。