ツルギの剣




 放課後。

 剣は日佳留とナイルに囲まれ、真希の指定した決闘の場所、野球部グラウンドへと向かうところ。


「アタシは、剣のことどうしようとか考えてないよ?

 ただ他の二人から剣を守りたいだけ。
 私が勝てば今まで通りで、しかも余計な二人から手出しもされなくなる。

 だから剣は心配しなくていいよ♪」

「うん、まあ日佳留に関しては心配してないけど……他の二人が」

「何故なんだい剣サン!
 僕はこんなにも君のことを思っているのに。

 その僕がこの勝負に勝ったからといって、無理に君へ迫るわけがないさ。

 まずは邪魔者に消えてもらって。
 それからゆっくり、君に僕の良さを教えてあげるのさ。

 心にも、身体にもね」

「ナイルさんはやっぱり負けて下さい」

「何故!?」


 やりとりを交わしているうちに、野球部グラウンドへ到着する。

 見ると、グラウンドの隅で真希と愛子が何か言い合いをしているようだった。
 三人はそこへ近づいていく。

「――おお、来たか!

 すまんな、ちょっと厄介なことになってしもうたんや。
 勝負はまた今度にお預けってことでええか?」

「厄介? どういうことかな」

 ナイルが話に割り入る。


「いや、実は来週、他県の高校と練習試合する予定やったんやけどな。

 急にウチの部員が全員揃って退部届出しおったんや」

「退部届? なんでそんな急な話が……」


「――反抗だ」


 愛子が口を開く。

「私や真希君のような人間に部を荒らされ、最後の夏という青春を壊された腹いせ、と言ったほうがいいだろう」

「そんで、今野球部は二人っきりっちゅうわけや。

 加えて元野球部の面々からも勝負突きつけられてな?」

 真希は肩をすくめてため息を吐く。


「今日この後ウチらと元野球部員で試合して、勝った方が負けた方の言うことを何でも聞く。

 そういう条件で、野球の試合を申し込まれたんや。
 それでこの人と言い合いになってな?」

 言って、愛子のことを指す。
 愛子はふん、と鼻で笑って。

「言い合いも何も無い。
 こんな勝負受ける必要も無い。

 人員はどうやってでも補充可能だ。
 あんな愚か者に拘る必要は無い」

「そんなこと言うても、さすがに二人じゃ来週の相手はキツイで!

 そもそも全打席敬遠されたら勝負にもならへんやろ。
 せめて4人は必要や!」


 愛子と真希の言い争いが続く。
 見かねた三人がその場を離れようとしたところ。

 誰かがグラウンドに近づき、声を上げる。


「勝負の時間だ!
 答えを聞かせてもらおう!」

 そこには、野球部のユニフォームに身を包んだ人物。

 元野球部員の代表者――恐らく部長だろう。

 代表者はバットを片手に真希へと近づいていく。
 ただ野球をするだけにしては妙に殺気立っていて、雰囲気がおかしい。

「ちょっと待ってくれや、部長さん。
 こっちかていろいろ考える時間が欲しいんや」

「いい加減にしろ!

 そう言われて猶予をやってから、もう半時間は経った。
 勝負するかどうかぐらいでそんなに悩むことがあるか!」

 乱暴に、バットで地面を殴りつける部長。

「そう怒らんといてや。
 ウチかて勝負は受けてやりたいんやけど……」

「だったら早く準備をしろ!」

 部長は怒りのまま、バットを振って真希を威圧する。

 今にも殴りかかろうか、というような勢い。
 これに反応したのが――剣だった。

「あの、すいません」

 言いながら。
 剣は距離を詰めて、バットを手で握って抑える。

「そうやって、バットを振り回すと危ないですよ」

「関係無い奴が口出しするな!」

 怒りに狂った部長は、剣を力づくで振り解く。

 これが気に入らなかったようで、剣は部長を睨む。

 思いもよらない反抗に、部長はなおさら怒りに震える。


「関係があればいいんですね」


 言って、剣は真希の方へ歩み寄り、腕を取って組む。

「今から、野球部に体験入部します。

 それで――試合の申し入れ、受けます」


 と言ってみせた。
 驚いたのは部長だけでなく。

 真希も愛子も、日佳留もナイルも。

 場の全員が呆気に取られる。

 何が剣にここまで意固地な態度をとらせるのか。
 理屈がさっぱり分からない。

 だが、味方には変わりない。

 真希はそう考えて、ぐいと剣を引き寄せ抱擁する。

「ホンマか剣ちゃん! よう言うた!

 ウチ嬉しいわ。

 昨日からずっと思うとった。
 君と野球やれたらどんだけ楽しいかってな!」

「うん、とりあえずよろしくお願いします」

 言いながらも、手早く真希の抱擁から抜け出す剣。

「でも、野球をやりたくて味方したわけじゃないですからね。

 私はあの部長さんが気に入らなかっただけです」


「――それが剣サンの気持ちってことだね」

 不意に、ナイルが口を挟む。

「だったら、僕は剣サンの味方をやらせてもらうよ。
 つまるところ、よろしく、ということだね真希サン」

「ホンマか!

 そら助かるわ。
 三人じゃあさすがに厳しいもんがあるからな」

「だったらアタシも!
 剣と一緒に野球するよ」

 続いて、日佳留まで名乗りを上げる。

 盛り上がる真希、ナイル、日佳留の三人。

 ワイワイと、状況に関わらず騒ぎ出す。


 剣は、味方の誰のことも眼中に無かった。

 静かに、部長を睨みつける。


 剣の内に秘めた強い感情に押されてか。

 部長も怒りのまま態度を決めるようなことはせず、冷静に通告する。


「……決定だ。すぐに支度をしろ」

 言い残し、部長は五人に背を向け、グラウンドから立ち去って行った。