「それで、深水女子に来たのはどうして?」
一番の疑問をぶつける剣。
「そうですわね……わたくしも、貴女の野球の行く先を見届けたくなった、とでも言えばよろしいかしら。
貴女の側で、白き道の続きを見ていたいと思ったのですわ。
それに、お姉様もそう望んでいるでしょう。
わたくし達が争い、離れることは望んでいないはずです」
盾は言って、剣と同じように空を見上げる。
日傘を傾け、天を開いた。
雲の少ない晴天。
吸い込まれそうな青。
弓の魂が還った場所。
「……剣、お姉様に恨まれているかもしれない、とまだ思っているようですわね」
「うん」
「お馬鹿さんね。
お姉様は、そんなに弱い人ではなくってよ」
「……そうだね。
ありがとう、盾」
剣は盾の言葉で、少し楽になったように感じた。
疑いが消えこそしないものの、太鼓判一つ押されたらば気持ちも変わる。
そのまま二人は、静かな時を過ごす。
青空に流れる筋のような雲を追う。
「ねえ、盾」
おもむろに、剣が口を開く。
「何かしら」
「そこに立ってると、パンツ丸見えだよ?」
言われて、ふふっと笑う盾。
上品に腰を下ろし、剣の隣に座る。
「そんなものを見て、嬉しいのかしら?」
「うーん、嬉しいというか。
盾はやっぱりフリフリしたやつが好きなんだなあ、って」
「もちろんですわ。そしてお姉様とはまるで正反対でした」
「そうなの?」
「ええ。
お姉様ったら、いくつになってもずっとしましまパンツしか履きませんでしたもの」
「あー、そうだったっけ。
覚えてないなあ」
「まあ、剣ったら。
恋人だったのでしょう?
見覚えが無いのかしら」
「いや、恋人だからってそんなにパンツを見る機会は無いと思うよ」
「つまり、剣とお姉様はそこまでするような関係ではなかった、と」
「うん、そうだね」
剣は、懐かしいことを思い出す。
中学一年のあの日。
弓に告白されてからの短い日々。
「弓とは結局、キスまでの関係だった」
何か、大切なことを思い出したような気がした。
剣は言葉を漏らしていく。
「今思えば、私は弓を本当に愛していなかったのかもしれない。
好きだったけど、それは恋じゃなかった。
弓とは違う気持ちだった。
大切な姉を慕う気持ちの延長線上だった。
……ような、気がする。
でも他の誰にも抱くことのない感情だったよ。
多分これからも、例え恋をしたって抱けない、特別な気持ちで弓を愛していた」
剣の言葉に、盾は微笑む。
そして、剣の手に自分の手を重ね、絡ませる。
「ええ、知っています。
今はわたくしにも理解できますわ。
お姉様も、きっとそれが分かった上で恋をしたのです。
貴女への思いを留めることが出来なかった。
だからすれ違い、あんなことになってしまった。
あれは、誰のせいでもない。
事故でもない。
愛故の、避けられない悲劇だった。
ですから、もう悲しまなくていいの。
剣はもう、自分を悪く思わなくていい」
盾の手は暖かかった。
剣の記憶にある通りの感触。
昔、三人姉妹だった頃と変わらぬ優しい温度。
「戻りましょう。
三人姉妹だったあの頃と同じに。
剣は末の妹。
わたくしが真ん中。
お姉様が長女。
懐かしい、幸せだった日々へ。
隔たる時の壁など超えて。
わたくしと剣で、姉妹に戻るのです」
「――うん。
ありがとう、盾」
きゅっ、と。
二人は同時に、結ぶ手を握りあった。
皮膚を通して伝わる。
互いが姉妹であると。
もう二度と心を離すことはない。
特別な、一つ限りの愛情で結ばれていると感じて、心の安らぐ二人。
その後、二人は他愛のないことを話した。
昔のことや、二人の思い出を。
中学から今までの空白を埋めるように。
本当の姉妹に戻ろうとして、昼休みが終わってもずっと、屋上に二人きりで話し合った。
