授業の時間も、剣には新鮮に感じられた。
二ヶ月の入院によるものもあるだろう。
だがそれよりも、聖凰との戦いで全てにけじめがついたことが大きい。
見るもの何もかも、新しく感じる。
自分の感覚がどれだけ曇っていたのかを痛感する。
そして、昼休み。
剣は食堂に行かず、珍しく購買でパンを買った。
そして立入禁止になっているはずの屋上に向かった。
寝転がり、空を見上げる。
弓の無念は晴れた。
空の青に溶けて消えた。
そして、その祈りを胸に宿して、剣は今を生きている。
「――弓、今はどう思ってるのかな」
天国があるとすれば。
剣は、そんな荒唐無稽な前提の上で呟く。
「あの時、確かにクリオジェニックショットには弓の闘気が宿ってた。
でも、それは本当に死んだ瞬間の弓の思いじゃない。
弓は、あの後苦しみ続けてから死んだんだよね。
もしかしたら、その間は私のことを恨み続けたのかもしれない。
結局、本当は私が自分の都合のいいように現実をねじ曲げて理解して……弓の生命の重みから、逃げているのかも」
「馬鹿なことを言いますのね」
不意に、剣の耳に聞き慣れた声が飛び込む。
驚いて声のする方へ顔を向ける。
屋上の扉を開き立っているのは、日傘を差した金髪縦ロールの少女。
間違いない、火群盾であった。
ドレス姿ではなく、深水女子の制服を着ている。
「盾!? どうしてここに?
それに、深水女子の制服なんか着て……」
「あら、聞いていませんでしたの?
わたくし深水女子に転校してきました。
アバドンにステラも一緒です。
今のわたくしたちは聖凰ではなく、深水女子の野球部の一員ですのよ」
盾に言われ、気づく。
なるほど、真希や日佳留の言っていたことはこれか。
サプライズ、あるいはおもろいこと。
盾が聖凰から深水に来たとなれば驚くのも当然だ。
「でも、いいの?
盾には盾の野球がある。
聖凰の仲間を置いて、深水女子にきて大丈夫だったの?」
「侮らないで欲しいですわね。
わたくしの野球は絶対防御、絶対勝利の野球。
仲間に距離は関係ありませんわ。
わたくしが背負い続ける限り、例え今後あの子達と戦うことになろうとも。
変わらずわたくしの野球は覚悟無き人々を守り続けるのです」
言いながら、盾は剣の傍らに寄ってくる。
そして続けて語る。
「それに――もう聖凰にわたくしの居場所はありません。
邪魔なだけですもの。
危険なだけの異分子は去るのみです。
そしてわたくしは、決闘に負けた。
剣、貴女の野球はわたくしの野球の上を行ったのです」
「でも、試合は深水女子の負けで終わったんでしょ?」
「わたくしの戦いは四対三で終わりました。
それに、点数など関係ありません。
貴女の魔球にわたくしは負けた。
先に倒れた。
これを負けと呼ばぬのは恥ですわ」
なるほど。
剣は納得した。
真希が剣に野球を続けられるといった理由。
それは盾が認めたからだ。
あの決闘で、負けたのは自分だと。
