ツルギの剣




「……剣、覚えとけよ!

 こんな所でお前の野球道は終わらへん。

 今日で右腕が壊れて無くなるっちゅうんやったら、明日からは左で投げろッ!

 そんぐらいの覚悟で投げ切れッ!

 せやないと、ウチは恨むからな!

 お前の球受けられへんなるなんて、ウチは絶対に嫌やからなァッ!」


 真希は怒鳴りつけながら泣いていた。

 そして、その場に座り込む。
 キャッチャーミットを突き出し、剣の投球を待ち構える。


「ありがとう、二人とも」


 剣は囁くように言った。

 誰にも聞こえないぐらい、小さな声。


「最高の戦いをありがとう――盾。

 そして、真希。

 愛してるよ」


 こうして、いよいよ投球に入る。


 絶叫。

 剣は、腕の痛みのあまりに叫び声を上げながら投球する。


 強烈な闘気を流し込み、青の刃が荒れ狂う。

 剣の身体に切り傷を刻んでいく。


 強すぎる力に、マウンド周りの土まで暴れ始める。


 白球に闘気と魂を込めて、剣は放球。

 絶叫が途切れる。

 球が剣の手を離れた瞬間――剣の上腕の筋肉が弾けた。


 ぱあん、と音を立てて、筋肉が断裂した。

 強すぎる力に、ついに腕が耐え切れなくなった。

 骨まで見えるほどの深い傷。
 血が流れ、溢れ出る。


 血染めの白球は剣の意思と情熱を乗せ、飛翔する。

 向かうはストライクゾーン一直線。

 魔球クリオジェニックショットが、盾の闘気を喰らおうと迫る。


 盾もまた、これを全力を超えた力で迎え撃つ。

 斬燿に、どんどん闘気を注ぎ込む。
 炎で腕が、身体が焼ける。

 それでもまだ足りないと闘気を注ぐ。

 掌が黒く焦げ、腕の皮膚が火傷に爛れようとも、まだ灼熱の闘気をバットに注いだ。


 そして、衝突。

 クリオジェニックショットは上昇し、盾はバットをダウンスイング。


 完全に正面からのパワー勝負。

 衝突の瞬間から、白球は闘気のジェットを吹き始める。

 盾はこの圧力に負けまいと、必死に耐えぬく。


 青と赤の、強大な力が鬩ぎ合い、やがて渦を作る。

 衝突の境界面から溢れ逃げ出る闘気が渦となり、辺りを巻き込む。

 力のうねりが風を起こし、球場には嵐のような突風が吹き荒れる。

 轟音が鳴り響き、人々の心胆を揺さぶり続ける。


 ――そして、決着の時。

 盾のスイングが、ギリギリで打ち勝った。

 クリオジェニックショットを押し返した。
 打球は浮き上がる。

 高く――しかし、前に進む力は無かった。


 白球は舞い上がる。

 強く縦に打ち上げられ、落下先はマウンド上。

 剣は左腕を天に掲げる。

 その中に、ぱぁん、と小気味いい音を立てて。
 白球が収まった。

 ピッチャーフライ。
 ついに、剣は盾をアウトに抑えたのだ。


 しかし様子がおかしい。

 剣も盾も微動だにしない。

 互いを睨み合い、一歩も動かない。

 呼吸が荒く、今にも倒れてしまいそうなほど両者ともに疲弊している。


 先に倒れたのは盾だった。

 意識を失い、前のめりに倒れる。

 剣はそれを確かに己の目で確認した。


 そして、苦しい表情に少しだけ笑みを浮かべ――盾と同様、前のめりに倒れる。

 意識は、既に無い。


「――剣ッ!」


 真希が剣へと駆け寄っていく。

 続けて、深水女子の全員がマウンドに集まる。

 そして盾にはアバドンとステラが。


 剣の腕は血塗れだった。

 裂けた筋肉。
 覗く骨。

 痛烈すぎる惨状に、誰もが目を覆いたい気持ちになった。


「病院や!
 病院に連れて行くんやッ!

 誰か救急車呼んでくれ、お願いや!

 このままじゃ剣が死んでまう!」


 真希は泣きながら、剣に縋りつく。


「剣ぃ……目ぇ開けてくれよぉ、絶対にこれで終わりなんて言うなよ。

 死んだりすんなよ、そないなことしたらウチ、お前の後追うからなぁ……ッ!」


 真希の泣き声がマウンドに響く。

 試合の結果など、とうに誰も気にしていなかった。

 ただ、無事でいてほしい。
 誰もが二人の選手の無事を祈っていた。


 やがて、ラブ将軍が呼んだ救急車が到着。

 剣と盾、そして二人に次いで怪我の酷い真希も運ばれていった。