剣は再び、クリオジェニックショットを解き放った。
青の刃が剣の身体を引き裂きながらも白球へと集まっていく。
一方で、盾も斬燿の構え。
炎が身を焦がしても、まだ力を高めていく。
ストライクゾーンよりも遥かに巨大な大鎚を形成する闘気。
だが、それでもまだ足りない。
盾の掌は、金属バットの持つ熱と自身の放つ炎でボロボロだった。
しかし、まだなお闘気を込め続ける。
勝負の時。
クリオジェニックショットと斬燿が衝突。
弾ける闘気。
強烈な力のあまり、ホームベースは巻き込まれ、無残に焼け焦げ、引き裂かれて消滅する。
小さなクレーターのようなものが出来上がる。
それでもなお、二つの力は競り合い続ける。
クリオジェニックショットの加速にも、まだ斬燿は耐えた。
勝たねばならない。
盾の勝利への執念は、すでに正義の為では無くなっていた。
元々あった理由など、脳裏から消し飛んでいた。
ただ、勝ちたい。
この魔球を打ってやりたい。
一つ眼前の戦いで勝利を収めたい。
いつの間にか、剣の姿勢に惹き付けられ、盾までも真っ白な思いで勝利を求めていた。
その思いの力は――とても強い。
クリオジェニックショットと釣り合うこと二十秒超。
全ての闘気を放出し終わった。
そこでようやく、クリオジェニックショットが打ち勝つ。
だが、斬燿も負けては居ない。
バットは弾き返されず、白球を掠った。
軌道が若干ずれるクリオジェニックショットを、真希はしっかりと捕球。
だが、闘気の激流を身体に上手く流すのが難しかった。
一球目の時よりはマシなものの、腕と身体が傷を負う。
三者三様の有り様だった。
剣は俯き、肩で息をしていた。
ユニフォームをズタズタに引き裂かれ、皮膚には切り傷が絶えない。
盾もユニフォームの殆どの部分を焼け落としており、露出した皮膚には焼け焦げ腫れた部分が目立つ。
真希の怪我は腕に集中しており、血が滴り、小さな貯まりを作るほどになっていた。
また、ミットは削れてボロボロ。
掌まで切り傷に塗れており、白球も真希の血色で染まっていた。
「次こそ、打ってみせますわ。
この一打の結果如何で、聖凰と深水女子、どちらに流れが向くか決まるのではないかしら」
盾は痛みに耐え、つらそうな表情を押し込め、真希に顔だけを向けて言った。
「なるほど……次が、勝負どころちゅうわけやな」
真希は言いながら、腕の痛みに耐えつつ立ち上がる。
剣に向けて、白球を投げ返す。
だが――剣の腕が、上がらない。
白球は剣の身体にぶつかり、ぼとり、と落下する。
「どうしたんや、剣」
問いかけられて、ようやく剣は顔を上げる。
痛みと苦しみを、無理に笑って隠そうとしている顔だった。
「ごめんね。
痛くて……腕が、上がらないんだ」
剣の告げる言葉は、絶望的な話だった。
腕が上がらない。
それは選手生命にも関わるような怪我にさえなりうる。
「んな、今になって、急にそんなよぉ!
クリオジェニックショットはそんな負担のでかい球なんか!?」
「ごめんね真希。私、ずっと嘘吐いてた」
真希に微笑みながら、剣は真実を告げる。
「山篭りの時からね。
ずーっと、腕は痛かったんだよ。
右腕だけは、怪我が治ってなかったんだ」
目の前が真っ暗になる。
真希は生まれて初めて、そんな感覚に陥った。
あの修行の間、ずっと剣は腕の痛みを堪えていたというのだ。
それも、真希が投げた木の棒や石で断続的に負傷を負いながら。
