ツルギの剣




(たしか、弓は剣と比べたらそれほど優秀やない超野球少女や、っちゅうとったな。

 盾の話の中ではそうやったはずや。

 それが何で、こんなパワーの魔球を抑え込めるんや。

 何か方法があるんちゃうか!?)


 思い至る真希。

 そして、再び声が響く。
 真希の心に直接語りかける。



 ――つるぎちゃんのことを疑っちゃ駄目。
 拒んじゃ駄目だよ。

 迷いがあれば、クリオジェニックショットの激流を身体に流して受け止められなくなる。

 それじゃあ、私と同じになっちゃうよ。



 声は確かに存在した。

 何者なのか、と問うつもりは無かった。

 この魔球の受け方を知っている人間など、あの世まで含めてたった一人しか居ないのだから。


(……そうか、超野球少女やもんな。

 無念や祈りも、力になって残る。

 アンタは、ずっと剣の中に自分の祈りを残して、この日を待っとったんやな。

 そうやろ――火群弓)


 真希は心中で呼びかける。

 だが、もう声は帰ってこない。
 きっと役目を終えたのだ。


 死の瞬間、弓の強い思いは闘気となって剣の腕に残り、次にクリオジェニックショットを受ける人間を待ち続けた。

 剣がこの球を投げ続ける為に。

 再び投げてくれる日が来ると――自分の生命が無くなる瞬間にさえ、剣を信じて祈っていたのだ。


 死者の強い祈りを預かり、受け継いで、真希は覚悟を決める。

 失敗すれば魔球の力を受け止められず、身体がこの威力を直接味わうことになる。

 成功すれば、恐らく闘気の激流は真希の身体を素直に流れ、霧散して消える。


(この魔球が激流。
 ウチはそれに乗る船ってとこか。

 確かに、力づくでどうにかなるもんでもないやろな)


 決めた。

 真希は己が放つ緑の闘気を消す覚悟を決める。


 そして、クリオジェニックショットの闘気を己の腕から身体に流し、受け止める。

 剣の魂と一つになるのだ。


 不意に、消えたと思った声が再び響く。



 ――さようなら、つるぎちゃん。

 どうか、強くあって。

 ゆみが大好きだった、強くて真っ直ぐなつるぎちゃん。

 いつまでも、どんな時も。

 自分らしい野球を貫いて――。



 その声は、真希だけに届いたものではなかった。

 剣と、そして盾にも届いた。


 声の主、弓の闘気が――剣と盾がよく見知った、桃色の闘気が白球から抜けていく。

 それは天に昇り、霧散して消え去った。


 祈りを真希に引き継いで、無念は天へと還っていった。


「――任せとけや、弓姉さんよォッ!」


 真希は弓に敬意を表し、姉と呼んだ。

 剣の心の姉であるならば、今からは自分の姉でもあった。


 そして、闘気を消す。

 真希を守る緑の光が消え失せ、クリオジェニックショットはミットの中に直撃。


「真希ッ!」


 剣は叫ぶ。

 クリオジェニックショットから溢れる闘気が、真希の腕を流れていく。
 皮膚を裂き、血が吹き出る。

 だが、それはすぐに収まった。

 真希のミットの中で、白球は黙り込んだ。

 真希は、見事にクリオジェニックショットの捕球を習得したのだ。


 沈黙。

 誰もが真希を見守る。

 腕の怪我だけでは判断できない。

 あれほどの威力の魔球を取って、闘気を身体に飲み込んで。
 本当に無事なのだろうか。

 誰もが不安な目で真希を見守る。


「――っしゃあッ!」


 真希の声が上がる。

 白球を収めた左腕のミットを、ガッツポーズの姿勢で高く掲げる。

 捕球したことを全ての人に誇示してみせた。

 歓声が、観客席の声が真希の健闘を祝福した。


「次やで、剣!

 あと2球で、この回をお終いにするんや!」


「うん、任せて!」


 真希は白球を剣に投げて返す。

 自分のミットを見る。
 皮が削れ、ほとんど掌が露出していた。

 まだまだ、かつての弓のように上手くは取れないということか。


(――弓姉さん。
 アンタは、最高の捕手やったんやな。

 剣にとって、アンタ以上の捕手はおらん。
 未来永劫、アンタ一人だけや。

 ウチもそう思うで)


 空を見上げ、真希は思う。

 が、すぐに前を向き、しゃがみ込む。


「よっしゃ、気張っていこうや!」


 そうして第二球。